書評
『外国人労働政策-霞が関の権限争いと日本型雇用慣行が招いた混迷の30年史』(中央公論新社)
どうなる?複雑な日本型在留資格
高市早苗首相が2月末の参議院本会議で外国人労働者の在留資格である「特定技能2号」につき、「受け入れ人数の上限を設定していない」と答弁した。在留更新無制限、家族同伴可であるこの枠の「上限を首相が撤廃した」と早とちりした一部保守層が、「移民開始宣言」だと批判している。「特定技能」は2018年の改正入管法で導入された在留資格で、以後、建設や造船、介護等、人手不足の産業分野を特定し受け入れた特定技能外国人は2025年6月時点で33万6000人強に上る。けれども大半は「1号」で、原則5年までの単身と制限がある。「2号」は日本語や技能につき厳しい検定試験が課される高度熟練特定技能者枠であり、同時点で3073人にすぎない。他の資格には「永住者」(93万人)、「技能実習」(45万人)、ホワイトカラーの「技術・人文知識・国際業務」(46万人)、「留学」(44万人)等があり、前年末から全体で19万人弱が増加している。高市首相は既存の改正入管法を読み上げただけだが、在留資格の規定が分かりにくいことも事実で、不安を誘発している。
外国人労働者の在留資格はなぜかくも複雑なのか。本書はその経緯を詳述、とりわけ1980年代以降、「使用者、労働者、公益を代表する三者構成」や「労働者への許可」といった労働政策の原則抜きで在留資格が設定された点に注目する。働きに来た人々に「労働者ではない」資格を与え、矛盾を取り繕うために複雑化したのである。
なぜ労働政策の原則は骨抜きにされたのか。その解明が本書の主題で、第一には「法務省と労働省の権限争い」がある。1989年の入管法改正で「日系人」、もしくは原則として就労が認められない「研修生」に在留資格が認められた。2016年の「技能実習法」で技能実習生として就労資格と正当な報酬が与えられるまで、法務省の入国管理局が外国人労働者を管理する主導権を握り、労働省の職業安定局は外された。両省の暗闘は公文書には記されないものの新聞には断片的に報じられており、丹念に再構成している。
驚くのが両省の確執が解消された事情だ。2000年代以降、官邸や内閣府の会議が政策の方向性を決めるようになり、対立は消滅していった。省庁再編の成果ではあるが、呆気(あっけ)ない。
第二は非営利団体に研修を監督させた理由で、日本型雇用システムのイデオロギーに支配されていたからと斬新な推測を展開している。外部の労働市場に依存する欧米の雇用システムとは対照的に、日本型では企業内の教育訓練を重んじた。職種(ジョブ)や技能(スキル)で評価されたい外国人労働者には企業での「雑巾がけ」教育は不利で、「特定技能」導入後に公的な検定試験が行われるようになった。開国の扉を開いたとすれば2018年の安倍内閣だったのだ。
複雑な在留資格の由来についての推測は説得的。ただし半世紀前から海外の労働政策を取り込んでいれば社会不安は起きなかったかといえば疑問は残る。移民労働の先進国である欧米で右派の排外主義が爆発しているからで、要は何により社会統合を実現するかである。論争のタネ満載の一冊だ。
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