書評
『トッカン―特別国税徴収官―』(早川書房)
税の徴収、あの手この手で奮闘
本書の主人公は、映画「マルサの女」に描かれた国税庁査察部の査察官ではない。東京の京橋税務署の〈トッカン〉こと特別国税徴収官・鏡雅愛(まさちか)の補佐を務める新米の女性徴収官・鈴宮深樹(みき)が語り手を務める。勝手な理屈をつけては、税金を延々と滞納する人びとから、二人が何がなんでも税を徴収しようと、あの手この手で奮闘するさまが、臨場感豊かに描き出される。交渉相手は、コーヒーチェーン店の店主、自転車屋の親爺(おやじ)、町工場の経営者、高級クラブのママなど。おとなしく納税する者はおらず、つねに徴収官と論争になり、激しく対立する。徴収官は、たとえ嫌われようと罵倒(ばとう)されようと、職務だけは果たさなければならない。
冷徹無比な鏡と、そんな鏡を嫌いながらも、どこかであこがれる深樹の心理の葛藤(かっとう)が、物悲しくもおかしい。専門用語が飛び交い、税法の講釈もあるが、邪魔にはならず、税務署のPR本?としても使えそうだ。
ライトノベル、漫画原作の書き手らしく、ときどき用語の使い方に今風の乱れがあるが、ストーリーテリングのうまさは、職人わざといってよい。
朝日新聞 2010年8月22日
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