書評
『ウィリアム・ブレイクのバット 新版』(幻戯書房)
何人もの平出隆がいる。架空の国の切手ばかりを描いた画家の足跡をたどる『葉書でドナルド・エヴァンズに』、自宅に遊びに来る仔猫との淡交を綴った小説『猫の客』、教授を務める大学の研究のための休暇を利用して渡ったベルリンを基点にヨーロッパの都市をめぐる紀行文学『ベルリンの瞬間』、野球愛溢れる『ベースボールの詩学』などなど――。
小説、エッセイ、紀行文、評論というさまざまな表現を試みる何人もの平出隆の、しかし、ベースとなっているのは詩だ。小説のような詩のような、エッセイのような詩のような、紀行文のような詩のような、評論のような詩のような。平出隆の書くものはいつだって詩と何かのあわいにいる。
蕎麦、野球にまつわるあれこれ、相撲、四十歳をすぎてはじめた車の運転、四半世紀前に生まれた車ウーズレー1300マークⅡ、レンタカーのベンツで走るドイツのアウトバーン、自転車。どのページを開いても、詩人にして何者かでもある平出隆の好きなものと出合うことができる、この五十五の掌編エッセイが収められた小ぶりの判型の瀟洒な本もまた、詩のような××のようなというあわいの文章を幾パターンも味わえる、平出隆入門者には絶好の一冊なのである。
いや、しかし、長年の平出ファンにとっても、この本は新しい驚きをもたらしてくれるにちがいない。妻に相撲の決まり手を教えているうちに面白くなってしまって、「めとった妻を、下手出し投げ」とか歌いながら技を繰り出して怒らせてしまったり、自動車教習所で一喜一憂したり、旅先で三人もの外国人男性からランバダ・パーティーに誘われたりと、ここで見せるお茶目でおかしな貌(かお)は、この詩人に関して上級者を自負する読者にも珍しいものにちがいないのだから。……うわっ、また一人、平出隆が増えてしまった。
【旧版】
【この書評が収録されている書籍】
小説、エッセイ、紀行文、評論というさまざまな表現を試みる何人もの平出隆の、しかし、ベースとなっているのは詩だ。小説のような詩のような、エッセイのような詩のような、紀行文のような詩のような、評論のような詩のような。平出隆の書くものはいつだって詩と何かのあわいにいる。
蕎麦、野球にまつわるあれこれ、相撲、四十歳をすぎてはじめた車の運転、四半世紀前に生まれた車ウーズレー1300マークⅡ、レンタカーのベンツで走るドイツのアウトバーン、自転車。どのページを開いても、詩人にして何者かでもある平出隆の好きなものと出合うことができる、この五十五の掌編エッセイが収められた小ぶりの判型の瀟洒な本もまた、詩のような××のようなというあわいの文章を幾パターンも味わえる、平出隆入門者には絶好の一冊なのである。
いや、しかし、長年の平出ファンにとっても、この本は新しい驚きをもたらしてくれるにちがいない。妻に相撲の決まり手を教えているうちに面白くなってしまって、「めとった妻を、下手出し投げ」とか歌いながら技を繰り出して怒らせてしまったり、自動車教習所で一喜一憂したり、旅先で三人もの外国人男性からランバダ・パーティーに誘われたりと、ここで見せるお茶目でおかしな貌(かお)は、この詩人に関して上級者を自負する読者にも珍しいものにちがいないのだから。……うわっ、また一人、平出隆が増えてしまった。
【旧版】
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