著者は言わずと知れた医学書院の元名物編集者だ。彼は自身が2000年に立ち上げた<ケアをひらく>シリーズにおいて多くの優れた書き手を発掘した名伯楽である。「べてるの家」「当事者研究」「中動態」「ユマニチュード」など、このシリーズから広がった言葉は数多い。リタイア後も編集に関わり続けてきた著者が、あらためて50冊にも及ぶシリーズの全容を振り返る。一冊一冊が見たこともないアイディアの塊のようなシリーズだけに、そのさわりだけが次々と紹介される本書の内容は、豊穣な驚きと発見に満ちている。ケアを謳いつつも「支援臭」がまったく感じられないのも白石カラーなのだろう。
編集という作業は本人を変えずに背景を変えるという意味でソーシャルワーク的でありうると著者はいう。なるほど、このシリーズに「異形の本」が多い理由がわかった。シリーズ全体がひとつの壮大な「ケア文化」の領域として背景に控えているからこそ、数多(あまた)の異形が社会的インパクトを持ち得たのだろう。著者の引退後も、後進がこの文化を継承していくことを願ってやまない。