コラム
堀江 敏幸「2018 この3冊」C・P・カヴァフィス『カヴァフィス全詩』(書肆山田)、吉増剛造『火ノ刺繍』(響文社)、スズキコージ作/かたやまけん絵『やまのかいしゃ』(福音館書店)
2018 この3冊
(1)『カヴァフィス全詩』C・P・カヴァフィス著、池澤夏樹訳(書肆山田)
(2)『火ノ刺繍』吉増剛造著(響文社)
(3)『やまのかいしゃ』スズキコージ作、かたやまけん絵(福音館書店)
(1)は本当に長く待たされた一冊。現代ギリシア語による百五十数篇の詩を日本語に移し替えるのに、訳者は四十年の歳月を費やした。『現代詩手帖』に連載されていたこの訳業に触れたのは、二十歳の頃だ。もう来ないかもしれないと思っていた麗しい蛮族の来襲を喜びたい。
(2)は重量感のある大冊だが、読み手を圧倒したりはしない。どの頁(ページ)も風の形象のように軽く舞う。ただし言葉は飛散しない。糸でしっかりかがられている。指でなぞると、所々に存在の突起みたいに感じられる糸瘤(いとこぶ)が、小さな光を放つ。
(3)は版元を変えての、久々の復刊。主人公のほげたさんは、現代社会の蛮族だ。人や時間の流れと反対方向に進む勇気を、渾身(こんしん)の脱力をもって示してくれる。あたりまえの風景を次々に異化していく彼の姿に、深く励まされた。
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