コラム
スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』(白水社)、スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』
絶版&復刻雑感
偉いよっ。偉いよ偉いよ偉いよっ、白水社は! 長らく読めなかったスティーヴ・エリクソンの歴史改変小説『黒い時計の旅』をuブックスから復刊させてくれたんだもの。ヒトラー専属のポルノ作家を媒介に、現実に似た二十世紀と、ヒトラーが生きていて七〇年代に至ってもドイツとアメリカの戦争が続いている虚構の二十世紀の間を、物語が往還し続けるパラレル・ワールドSF風のこの傑作が、版元の福武書店が現代アートや文学に理解ある先代社長亡き後、ベネッセなんつー社名に変わったのを受けて絶版の憂き目にあい、そのせいで若い読者にとって敷居の高い小説になってしまっていたんですの。同じく福武書店から出たスティーヴン・ミルハウザーの伝記小説の傑作パロディ『エドウィン・マルハウス』もuブックスが復刊済み。ついでに、ジム・ダッジのロケンローラー感覚溢るるロード・ノヴェル『ゴーストと旅すれば』もuブックスの仲間に入れてあげてくんないかしらん。〈みなし児の少年がある魔術結社に引き取られ、錬金術の修業を積みながら奇想天外な冒険を繰り広げる三作目“Stone Junction”も福武書店で近刊の予定〉なんて訳者あとがきを読むと、いまだにベネッセ憎しの念が真っ赤な火の玉と化してカメハメハー、んな感じなんですの。
あ、もー、こーなったら福武文庫から出た可哀想な本たちも、どんどん復活してあげておくんなまし。メルヴィルの怪奇ロマン冒険小説『タイピー』でしょ、エイメのノワール短篇集『クールな男』でしょ、二十世紀初頭の小田原をドン・キホーテの世界や西部劇の舞台に変えてしまう牧野信一の短篇集『バラルダ物語』でしょ、城市郎の裏文学史『発禁本』でしょ、後世二千以上もの文献を生んだ謎の少年をめぐる初めの一冊フォイエルバッハの『カスパー・ハウザー』でしょ。すっごく面白い本を多々揃えていた文庫だっただけに、可愛さあまって憎さ百倍。ベネッセ憎しの念が真っ赤な(以下同文)、なんですの。
噂によれば、白水uブックス、河出文庫、平凡社ライブラリーが、そういった他社から出た品切れの名著を蘇らせるぞ運動を展開中なんだそうで、オデはお手々のシワとシワを合わせて幸せ、南無〜の気持ちでいっぱいです。その前に、自分とこの文庫で入手しにくくなってるものを何とかしろよとか、自社の単行本で消えそうなものを文庫化しろよという意見もございましょう。また、新しい作品を出すのではなく、ある程度の売れ行きが見込める旧著を復活させるのは、リメークばかりに走るハリウッド同様、斜陽の傾向にあるのではないのかという不安もございましょう。ございましょうがっ、やはり復刊はよいものです。大変よいものです。
かつて、某同業者と絶版&復刊問題について話していた時、こんなことを云われました。
「ホントは復刊なんてしてほしくないんでしょ。自分だけが持ってて、自分だけがその本について語れるって特権意識は、こういう仕事してると失いたくないじゃない?」
その時、ベネッセ憎しの念が真っ……ベネッセ関係ないっちゅうの。とにかくカッとなったわけですよ、わたくしは。ちっちぇー。ちっちゃすぎるよ、ケツの穴がっ! スモールアスホール野郎だよ。雑誌で本を紹介する時、「絶版や品切れは避けて」と云われ、悔しい思いをすること多々あるこの商売。大手を振って『黒い時計の旅』が紹介できるようになる慶賀を寿がないで、何がブックレビュアーか。自分が大好きな本を大勢の人にも読んで好きになってほしいと願わずに、何が書評家か。そういうことなんだすわね。だすわよ。
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