コラム

スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』(白水社)、スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』

  • 2026/03/05

絶版&復刻雑感

偉いよっ。偉いよ偉いよ偉いよっ、白水社は! 長らく読めなかったスティーヴ・エリクソンの歴史改変小説『黒い時計の旅』をuブックスから復刊させてくれたんだもの。ヒトラー専属のポルノ作家を媒介に、現実に似た二十世紀と、ヒトラーが生きていて七〇年代に至ってもドイツとアメリカの戦争が続いている虚構の二十世紀の間を、物語が往還し続けるパラレル・ワールドSF風のこの傑作が、版元の福武書店が現代アートや文学に理解ある先代社長亡き後、ベネッセなんつー社名に変わったのを受けて絶版の憂き目にあい、そのせいで若い読者にとって敷居の高い小説になってしまっていたんですの。

黒い時計の旅  / スティーヴ エリクソン
黒い時計の旅
  • 著者:スティーヴ エリクソン
  • 翻訳:柴田 元幸
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(402ページ)
  • 発売日:2005-08-01
  • ISBN-10:4560071500
  • ISBN-13:978-4560071502
内容紹介:
仮に第二次大戦でドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら…。ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男を物語の中心に据え、現実の二十世紀と幻のそれとの複雑なからみ合いを瞠目すべき幻視力で描き出した傑作。

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同じく福武書店から出たスティーヴン・ミルハウザーの伝記小説の傑作パロディ『エドウィン・マルハウス』もuブックスが復刊済み。ついでに、ジム・ダッジのロケンローラー感覚溢るるロード・ノヴェル『ゴーストと旅すれば』もuブックスの仲間に入れてあげてくんないかしらん。〈みなし児の少年がある魔術結社に引き取られ、錬金術の修業を積みながら奇想天外な冒険を繰り広げる三作目“Stone Junction”も福武書店で近刊の予定〉なんて訳者あとがきを読むと、いまだにベネッセ憎しの念が真っ赤な火の玉と化してカメハメハー、んな感じなんですの。

エドウィン・マルハウス: あるアメリカ作家の生と死 / スティーヴン ミルハウザー
エドウィン・マルハウス: あるアメリカ作家の生と死
  • 著者:スティーヴン ミルハウザー
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(401ページ)
  • 発売日:2003-08-01
  • ISBN-10:4560047685
  • ISBN-13:978-4560047682

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エドウィン・マルハウス / スティーヴン・ミルハウザー
エドウィン・マルハウス
  • 著者:スティーヴン・ミルハウザー
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:文庫(532ページ)
  • 発売日:2016-06-04
  • ISBN-10:4309464300
  • ISBN-13:978-4309464305

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あ、もー、こーなったら福武文庫から出た可哀想な本たちも、どんどん復活してあげておくんなまし。メルヴィルの怪奇ロマン冒険小説『タイピー』でしょ、エイメのノワール短篇集『クールな男』でしょ、二十世紀初頭の小田原をドン・キホーテの世界や西部劇の舞台に変えてしまう牧野信一の短篇集『バラルダ物語』でしょ、城市郎の裏文学史『発禁本』でしょ、後世二千以上もの文献を生んだ謎の少年をめぐる初めの一冊フォイエルバッハの『カスパー・ハウザー』でしょ。すっごく面白い本を多々揃えていた文庫だっただけに、可愛さあまって憎さ百倍。ベネッセ憎しの念が真っ赤な(以下同文)、なんですの。

噂によれば、白水uブックス、河出文庫、平凡社ライブラリーが、そういった他社から出た品切れの名著を蘇らせるぞ運動を展開中なんだそうで、オデはお手々のシワとシワを合わせて幸せ、南無〜の気持ちでいっぱいです。その前に、自分とこの文庫で入手しにくくなってるものを何とかしろよとか、自社の単行本で消えそうなものを文庫化しろよという意見もございましょう。また、新しい作品を出すのではなく、ある程度の売れ行きが見込める旧著を復活させるのは、リメークばかりに走るハリウッド同様、斜陽の傾向にあるのではないのかという不安もございましょう。ございましょうがっ、やはり復刊はよいものです。大変よいものです。

かつて、某同業者と絶版&復刊問題について話していた時、こんなことを云われました。

「ホントは復刊なんてしてほしくないんでしょ。自分だけが持ってて、自分だけがその本について語れるって特権意識は、こういう仕事してると失いたくないじゃない?」

その時、ベネッセ憎しの念が真っ……ベネッセ関係ないっちゅうの。とにかくカッとなったわけですよ、わたくしは。ちっちぇー。ちっちゃすぎるよ、ケツの穴がっ! スモールアスホール野郎だよ。雑誌で本を紹介する時、「絶版や品切れは避けて」と云われ、悔しい思いをすること多々あるこの商売。大手を振って『黒い時計の旅』が紹介できるようになる慶賀を寿がないで、何がブックレビュアーか。自分が大好きな本を大勢の人にも読んで好きになってほしいと願わずに、何が書評家か。そういうことなんだすわね。だすわよ。

【このコラムが収録されている書籍】
ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇 / 豊崎 由美
ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:本の雑誌社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(288ページ)
  • 発売日:2012-06-21
  • ISBN-10:486011230X
  • ISBN-13:978-4860112301
内容紹介:
和もの外文問わず厳選82作+その他5作。1500字に詰まった1冊入魂のガタスタ屋の矜持をご覧じろ。

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