書評
『ぼくのともだち』(白水社)
孤独な男の日々、品よく描写
恥ずかしい限りだが、著者のエマニュエル・ボーヴのことを私は知らなかった。十九世紀の終わりに移民の子どもとしてパリに生まれ、コレットに見い出されて本書でデビューを飾る。華々しい文学的活躍を遂げたが、方法的実験の先行したフランスの文学の世界で、徐々に忘れられた。もちろん、文学史に鮮やかな刻印を残すほどの作品というわけではない。だが、滅法(めっぽう)おもしろい。主人公のヴィクトール・バトンは第一次世界大戦で負傷、傷痍(しょうい)軍人年金で暮らしている。
全体に向上心というものがない。遅く起きる。街をブラブラする。孤独である。「孤独がぼくを押し潰(つぶ)す。ともだちが欲しい」。バトンはそう呟(つぶや)くが、意外と人間関係はある。カフェの女主人と愛し合ったり。でも仕事はしていない。自分が寝ている姿の描写はこんなふう。「脛(すね)の上には脱いだ服がのっている。ぺしゃんこになって、片側だけ温まっている。」
私はこの文章を読んで、びっくりした。主人公は孤独な男かもしれないが、彼を取り巻くモノの描写が正確この上ない。文章に品があって、過不足がない。ボーヴの本格的紹介を望む。
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