書評

『ぼくのともだち』(白水社)

  • 2026/06/04
ぼくのともだち / エマニュエル・ボーヴ
ぼくのともだち
  • 著者:エマニュエル・ボーヴ
  • 翻訳:渋谷 豊
  • 出版社:白水社
  • 装丁:新書(219ページ)
  • 発売日:2013-07-02
  • ISBN-10:4560071845
  • ISBN-13:978-4560071847
内容紹介:
「孤独がぼくを押し潰す。ともだちが欲しい。本当のともだちが! 」パリ郊外モンルージュ。主人公のヴィクトールは、まるで冴えない孤独で惨めな貧乏青年。誰もが勤めに出ているはずの時間、… もっと読む
「孤独がぼくを押し潰す。ともだちが欲しい。本当のともだちが! 」

パリ郊外モンルージュ。主人公のヴィクトールは、まるで冴えない孤独で惨めな貧乏青年。誰もが勤めに出ているはずの時間、彼だけはまだアパートの部屋に居残っている。朝寝坊をして、なにもない貧相な部屋でゆっくりと身繕いをし、陽が高くなってから用もないのに街へと出て行く。誰かともだちになれる人を探し求めて……。

職ナシ、家族ナシ、恋人ナシ。「狂騒の時代」とも呼ばれた1920年代のにぎやかなパリの真ん中で、まったく孤立し無為に過ごす青年のとびきり切なくとびきり笑える〈ともだち探し〉は、90年もの時を経て現代日本の読者に驚くほどストレートに響く。かのベケットが「心に沁み入る細部」と讃えたボーヴの筆による、ダメ男小説の金字塔。

孤独な男の日々、品よく描写

恥ずかしい限りだが、著者のエマニュエル・ボーヴのことを私は知らなかった。十九世紀の終わりに移民の子どもとしてパリに生まれ、コレットに見い出されて本書でデビューを飾る。華々しい文学的活躍を遂げたが、方法的実験の先行したフランスの文学の世界で、徐々に忘れられた。

もちろん、文学史に鮮やかな刻印を残すほどの作品というわけではない。だが、滅法(めっぽう)おもしろい。主人公のヴィクトール・バトンは第一次世界大戦で負傷、傷痍(しょうい)軍人年金で暮らしている。

全体に向上心というものがない。遅く起きる。街をブラブラする。孤独である。「孤独がぼくを押し潰(つぶ)す。ともだちが欲しい」。バトンはそう呟(つぶや)くが、意外と人間関係はある。カフェの女主人と愛し合ったり。でも仕事はしていない。自分が寝ている姿の描写はこんなふう。「脛(すね)の上には脱いだ服がのっている。ぺしゃんこになって、片側だけ温まっている。」

私はこの文章を読んで、びっくりした。主人公は孤独な男かもしれないが、彼を取り巻くモノの描写が正確この上ない。文章に品があって、過不足がない。ボーヴの本格的紹介を望む。


ぼくのともだち / エマニュエル・ボーヴ
ぼくのともだち
  • 著者:エマニュエル・ボーヴ
  • 翻訳:渋谷 豊
  • 出版社:白水社
  • 装丁:新書(219ページ)
  • 発売日:2013-07-02
  • ISBN-10:4560071845
  • ISBN-13:978-4560071847
内容紹介:
「孤独がぼくを押し潰す。ともだちが欲しい。本当のともだちが! 」パリ郊外モンルージュ。主人公のヴィクトールは、まるで冴えない孤独で惨めな貧乏青年。誰もが勤めに出ているはずの時間、… もっと読む
「孤独がぼくを押し潰す。ともだちが欲しい。本当のともだちが! 」

パリ郊外モンルージュ。主人公のヴィクトールは、まるで冴えない孤独で惨めな貧乏青年。誰もが勤めに出ているはずの時間、彼だけはまだアパートの部屋に居残っている。朝寝坊をして、なにもない貧相な部屋でゆっくりと身繕いをし、陽が高くなってから用もないのに街へと出て行く。誰かともだちになれる人を探し求めて……。

職ナシ、家族ナシ、恋人ナシ。「狂騒の時代」とも呼ばれた1920年代のにぎやかなパリの真ん中で、まったく孤立し無為に過ごす青年のとびきり切なくとびきり笑える〈ともだち探し〉は、90年もの時を経て現代日本の読者に驚くほどストレートに響く。かのベケットが「心に沁み入る細部」と讃えたボーヴの筆による、ダメ男小説の金字塔。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2005年12月22日

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