書評
『雲の都〈第1部〉広場』(新潮社)
『雲の都 第一部 広場』は『岐路』『小暗い森』『炎都』と書き継がれ、「永遠の都」三部作と呼ばれている作品群に續(つづ)く新しい長篇叙事詩の最初の一冊である。
しかし今回もそれぞれが單独の作品として讀(よ)めるように構成されているのでこれだけを批評することも充分に可能だ。
この作品の主人公の一人は医学生の悠太である。彼は前作に登場した時は陸軍幼年学校生だったがここでは敗戰後、東京大学の医学部の学生でセツルメントで活動している。
私が「主人公の一人」というのは、いわゆる近代小説の形式を著者は意図して壊し幾人もの主人公を登場させているからである。
影の主人公はこの作品でも病院の創設者時田利平だということも出来るし、都が燃え盡(つ)きた後に人間の愚かさや愛らしさや卑小さを見せながらも真劔(しんけん)に生きている群像が主人公だとも、そういう時代こそ主題を擔(にな)っていると指摘することも可能だからである。
この『雲の都』を讀むと、今日の文学があまり時代のなかに生きる人間の思想を描こうとして来なかったように思えてくる。
悠太の次姉夏江と思想的に純粋なキリスト教徒の夫透、利権に敏感な一族のなかの政治家、頭のいい労働者浦沢明夫、その恋人の菜々子、その母親、セツルメントで活動しているそれぞれ個性的な仲間たち。
彼らは一九五二年五月の”血のメーデー”に捲(ま)きこまれる。
おそらく作者が腐心したのは、人間の思想と感性と肉体が一人のなかで容易に分離してしまうという我が国の現代社会の欠陥(けっかん)をどう描くかということではなかったかと私は思う。それにしても、著者は用意周到で、讀んでいると、次の展開ではこの人物が大いに活躍するのではないか、というような事が分かってくる。つまり布石と調査が綿密なのである。そのお陰でこれは讀み出すと最後まで一気に讀め、次の展開が待たれる作品である。
【この書評が収録されている書籍】
しかし今回もそれぞれが單独の作品として讀(よ)めるように構成されているのでこれだけを批評することも充分に可能だ。
この作品の主人公の一人は医学生の悠太である。彼は前作に登場した時は陸軍幼年学校生だったがここでは敗戰後、東京大学の医学部の学生でセツルメントで活動している。
私が「主人公の一人」というのは、いわゆる近代小説の形式を著者は意図して壊し幾人もの主人公を登場させているからである。
影の主人公はこの作品でも病院の創設者時田利平だということも出来るし、都が燃え盡(つ)きた後に人間の愚かさや愛らしさや卑小さを見せながらも真劔(しんけん)に生きている群像が主人公だとも、そういう時代こそ主題を擔(にな)っていると指摘することも可能だからである。
この『雲の都』を讀むと、今日の文学があまり時代のなかに生きる人間の思想を描こうとして来なかったように思えてくる。
悠太の次姉夏江と思想的に純粋なキリスト教徒の夫透、利権に敏感な一族のなかの政治家、頭のいい労働者浦沢明夫、その恋人の菜々子、その母親、セツルメントで活動しているそれぞれ個性的な仲間たち。
彼らは一九五二年五月の”血のメーデー”に捲(ま)きこまれる。
おそらく作者が腐心したのは、人間の思想と感性と肉体が一人のなかで容易に分離してしまうという我が国の現代社会の欠陥(けっかん)をどう描くかということではなかったかと私は思う。それにしても、著者は用意周到で、讀んでいると、次の展開ではこの人物が大いに活躍するのではないか、というような事が分かってくる。つまり布石と調査が綿密なのである。そのお陰でこれは讀み出すと最後まで一気に讀め、次の展開が待たれる作品である。
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