書評
『ヴェネツィア 水上の迷宮都市』(講談社)
水路と路地が絡むべニスの迷宮
東京論ブームを支えた一人に陣内秀信(じんないひでのぶ)がいる。彼は、『東京の空間人類学』(筑摩書房・現ちくま学芸文庫)の中で、江戸が丘と水辺を巧みに生かした町であったことを言い、その伝統は今の東京まで続いていることを実証した。江戸のものは、城の石垣くらいしか残っていないと思われていた“みなし子東京”に時間の連続性を与えたのである。その著者が、一年間、イタリアのヴェネッィア(ベニス)に暮らして、このたび帰ってきて、『ヴェネツィア 水上の迷宮都市」(講談社現代新書)を出した。
江戸・東京の魅力を丘と水辺の入り交じりにあると見抜いた著者は、ヴェネツィアにどんな魅力を発見したんだろうか。観光客じゃあるまいし、「水の都ベニス」にいまさら水辺の面白さを発見されても読者としては困るが、もちろんそんなことはない。
著者がヴェネツィアに家族ともども暮らして見いだしたのは、迷宮の面白さだった。水路と路地がパズルのように絡み合い、角を曲がった先には何があるのか行ってみるまでは予想もつかない。袋小路になったり、二階が迫(せ)り出したトンネル状の細道が現れるかと思うと、突如、広場が開ける。そうした外来者には混雑としか思えない迷路を、そこで育った市民たちは完壁に使いこなす。
著者は、こうした迷路がイスラムの都市の伝統が入ってきたものと説明する。たしかにかつて、この港町は東西交易の拠点であった。
「迷宮」「東西」、この二つが陣内秀信の新しい都市論のキーワードである。
前著は、東京のウォーターフロント開発を呼び起こすような働きをしているが、こんどは何を呼ぶのだろうか。
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