書評
『アボリジニーの国―オーストラリア先住民の中で』(中央公論社)
北米のインディアン、スペインや東欧のジプシー、日本のアイヌ民族、そしてオーストラリアのアボリジニーなど、少数民族の問題は文明社会の取り組むべき古くて新しいテーマといえる。本書は知られざる先進国オーストラリアのなかで、さらに知られることの少ないアボリジニー問題について書かれた、貴重な報告書だ。
アボリジニー(ないしアボリジナル=原住民を意味する)は、オーストラリアに白人が入植する何万年も前から、この大陸に住みついている先住民族である。白人がやって来るまでは、ほとんど石器時代と同様の生活を送っていたというから、文明人との出会いが彼らにとってどれほどのカルチャーショックであったかは、想像にかたくない。現在彼らは政府の保護と補助のもとに、無理やり文明社会への同化を強要されているらしいが、著者によれば最近彼らも民族意識に目覚め、若者を中心に「アボリジナル・ルネサンス」が始まっているという。
われわれが、アボリジニーについて知っていることは、ごく限られている。せいぜいブーメランを操る原住民、といった程度の知識があればいい方だろう。かつてウィンブルドンの女子テニスで優勝したイヴォンヌ・グーラゴンや、ファイティング原田と戦ったボクサーのライオネル・ローズが、アボリジニーだったことすら知られていない。
本書はそうした基本的なことから説き起こして、アボリジニーの現状を分かりやすく紹介、解説している。著者はオーストラリア国立原住民研究所準研究会員の肩書を持ち、政府機関のバックアップのもとに本格的にアボリジニーの調査研究に取り組み、その一端をここに披露したのである。したがってこのリポートは、新聞記者が駆け足で取材したり、オーストラリア在住経験者が聞きかじりで書いた裏話とは、一味も二味も違う。
著者のアボリジニーに対する態度はきわめて率直、かつ積極的である。甘っちょろい同情心などなまじ見せないだけに、いささかドライな印象さえ受けるが、著者が彼らに注ぐ暖かい眼差しは自ずと行間からにじみ出て来る。著者のアボリジニーに対する認識は、必ずしも楽観的ではないが、未来へ向けての希望を明確に示しており、読後感は非常にさわやかだ。アボリジニーでも、あまり食べなくなったといわれる蛾の幼虫や、とかげのフライに果敢に挑戦する著者のバイタリティも、ほほえましく胸を打つ。真珠貝採取潜水夫の日本人とアボリジニー女性との結婚、二人の間に生まれた混血児の生活ぶりと苦闘など、これまでほとんど伝えられたことのないエピソードも交じり、興味深く読める。
アボリジニーについて書かれた本はこれまでもいくつかあり、最近ではジェフリー・ブレイニーのそのものずばり『アボリジナル』(サイマル出版会)といった好著も目につく。しかし本書は日本人によるリアルタイムの肉弾リポートとして、オーストラリアに興味を持つ人には必読の入門書といってよいだろう。
【この書評が収録されている書籍】
アボリジニー(ないしアボリジナル=原住民を意味する)は、オーストラリアに白人が入植する何万年も前から、この大陸に住みついている先住民族である。白人がやって来るまでは、ほとんど石器時代と同様の生活を送っていたというから、文明人との出会いが彼らにとってどれほどのカルチャーショックであったかは、想像にかたくない。現在彼らは政府の保護と補助のもとに、無理やり文明社会への同化を強要されているらしいが、著者によれば最近彼らも民族意識に目覚め、若者を中心に「アボリジナル・ルネサンス」が始まっているという。
われわれが、アボリジニーについて知っていることは、ごく限られている。せいぜいブーメランを操る原住民、といった程度の知識があればいい方だろう。かつてウィンブルドンの女子テニスで優勝したイヴォンヌ・グーラゴンや、ファイティング原田と戦ったボクサーのライオネル・ローズが、アボリジニーだったことすら知られていない。
本書はそうした基本的なことから説き起こして、アボリジニーの現状を分かりやすく紹介、解説している。著者はオーストラリア国立原住民研究所準研究会員の肩書を持ち、政府機関のバックアップのもとに本格的にアボリジニーの調査研究に取り組み、その一端をここに披露したのである。したがってこのリポートは、新聞記者が駆け足で取材したり、オーストラリア在住経験者が聞きかじりで書いた裏話とは、一味も二味も違う。
著者のアボリジニーに対する態度はきわめて率直、かつ積極的である。甘っちょろい同情心などなまじ見せないだけに、いささかドライな印象さえ受けるが、著者が彼らに注ぐ暖かい眼差しは自ずと行間からにじみ出て来る。著者のアボリジニーに対する認識は、必ずしも楽観的ではないが、未来へ向けての希望を明確に示しており、読後感は非常にさわやかだ。アボリジニーでも、あまり食べなくなったといわれる蛾の幼虫や、とかげのフライに果敢に挑戦する著者のバイタリティも、ほほえましく胸を打つ。真珠貝採取潜水夫の日本人とアボリジニー女性との結婚、二人の間に生まれた混血児の生活ぶりと苦闘など、これまでほとんど伝えられたことのないエピソードも交じり、興味深く読める。
アボリジニーについて書かれた本はこれまでもいくつかあり、最近ではジェフリー・ブレイニーのそのものずばり『アボリジナル』(サイマル出版会)といった好著も目につく。しかし本書は日本人によるリアルタイムの肉弾リポートとして、オーストラリアに興味を持つ人には必読の入門書といってよいだろう。
【この書評が収録されている書籍】
週刊東洋経済 1985年2月23日
1895(明治28)年創刊の総合経済誌
マクロ経済、企業・産業物から、医療・介護・教育など身近な分野まで超深掘り。複雑な現代社会の構造を見える化し、日本経済の舵取りを担う方の判断材料を提供します。40ページ超の特集をメインに著名執筆陣による固定欄、ニュース、企業リポートなど役立つ情報が満載です。
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