書評
『脳はすすんでだまされたがる マジックが解き明かす錯覚の不思議』(角川書店)
ミステリー執筆の参考にも
著者こそ異なるが、本書は評者がこの欄で1年前に紹介した、『錯覚の科学』と対をなすべき、啓蒙書である(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2012年)。ここでは、注意力の欠如や記憶の誤りなど、さまざまな理由で起こる錯誤のメカニズムを、マジックの成り立ちをとおして、解明しようとする。周知のとおり、推理小説のトリックは、マジックの仕掛けとよく似ている。読者を、間違った方向に誘導しておき、最後に意外な真相を示して、度肝を抜く例の手法である。
本書は、人がいかにだまされやすいかを、マジシャンのテクニックを紹介しつつ、興味深く解き明かす。関連するマジックの、実技と種明かしが随所に織り込まれているので、素人マジシャンの手引書としても、楽しく読める。
推理小説の世界には、先年亡くなった泡坂妻夫さんという、マジックの名手がいた。もしかすると、本書はミステリー作家を目指す人が、トリックを考えるための参考書として、活用できるかもしれない。
朝日新聞 2012年5月27日
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