美術展評
『ファン・ゴッホ 巡りゆく日本の夢』(青幻舎)
ゴッホ展 巡りゆく日本の夢 東京都美術館(東京・上野、2017/10/25~2018/1/8)
ゴッホはパリで浮世絵に出会い、鮮やかな色彩や大胆な構図に魅了されます。江戸後期の浮世絵師は西洋の遠近法に学び、ゴッホは逆輸入したわけです。当時描いた「エゾギク、サルビアを生けた花瓶」は、背景の黒が平面的な花を際立たせ、その質感はまるで漆器のようです。日本への憧れが強まるのは南仏アルル時代。初めて訪れた冬、「まるでもう日本人の画家たちが描いた冬景色のようだった」と記しています。当時の作品「雪景色」は、遠近法は誇張され、陰影ははぎ取られて平面的です。地平線を高く描き、茂みや板囲いを斜めに配置した点などに歌川広重の影響があるとされます。不思議に感じたのは前景を上から見下ろすような視点。いったい誰が見ているのか、異界からのまなざしのようで、これこそが浮世絵的なのではないかと思いました。
ゴッホの描く「日本」は、日本人なら多少の違和感を覚えるでしょう。私はノーベル賞作家、カズオ・イシグロの初期作品を思い出しました。小説「浮世の画家」「遠い山なみの光」には、彼が5歳まで暮らし、心の中で大事にしてきた日本が描かれています。ゴッホも同様に、虚構の日本に理想郷を見いだし、独自のイメージを育てていったのかもしれません。そのずれは不快ではなく、むしろ心地よく感じます。
日本との関わりをテーマとする文脈の中で、一見ゴッホとは思えない作品を読み解く楽しさがあります。有名な絵ばかりを並べなくても、明確な主題があれば、オリジナル性のある企画展ができるのだと再認識しました。(聞き手 松本由佳)
ALL REVIEWSをフォローする








































