書評
『卵とパンの組み立て方: 卵サンドの探求と料理・デザートへの応用』(誠文堂新光社)
誰が作ってもきっとうまくゆく卵とパンとの不動の組み合わせ
ゆで卵卵サラダ卵焼きだし巻き卵オムレツスクランブルエッグ目玉焼きポーチドエッグマヨネーズカスタードクリームザバイオーネほとんど一篇の美しい詩だなと思うのだが、これは本書の第一章「01 パンに合わせる基本の卵」に登場する定番の料理を羅列しただけ。よけいな形容詞や修飾のない一語一語なのに、くやしいほどぐっとくるのは、それが卵料理だからだろうか。
経験や知識、興味の度合い、年齢や性別も問わないニュートラルな料理の手引きは、残念ながら意外に少ない。いっぽう、プロ向けの教則本は専門的な知識や技術を前提としているから、実生活から離れてしまう。
本書は、まさに「ニュートラルな料理の手引き」として最良の一冊。卵という奥の深い素材を、ひまわりみたいに大きく明るく花開かせる。卵とパンという不動の組み合わせにテーマを絞り、まず定番料理の解説と作り方をきちんと押さえてむだがない。
「組み立てる」=「解体する」。
この視点がいったん整理されているかどうかによって、料理の作り方の伝わりやすさ、説明の的確さは大きく違う。勘どころを伝授したつもりでも、経験や技術に幅がある不特定多数の読者を相手にすれば、解釈にも微妙なズレが生じがち。しかし、料理の組み立てをわかりやすく腑(ふ)分けすれば、誤差はおのずと少なくなるはず。その結果、誰が作ってもきっとうまくゆく。
スカッと明快、本書に清潔な空気が通底しているのは、そんなわけなのだ。
「02 パンに卵をはさむ」では、「01」で説明されたゆで卵やオムレツやスクランブルエッグが、パンにはさまれて次なる展開をみせる。卵サラダサンド、乱切り卵サンド、輪切り卵サンド、桜えびのだし巻き卵サンド、べーコンとほうれん草のオムレツサンド、ベーコンエッグとキャベツの全粒粉サンド……続々(個人的にはエッグスライサーで輪切りにした卵サンドの断面のグラフィカルな美しさに胸アツ。はさみ方の解説写真もツボです)。一点ずつの断面を写実するビジュアルもわかりやすさ優先、パンの厚さと中身のバランスもおのずと学習できる仕組みになっている。
「03 パンに卵をのせる つける」では、目玉焼きやポーチドエッグと食パンの展開を。「04 パンを卵にひたす」では、溶き卵に牛乳や砂糖などを混ぜた液にパンを浸(つ)ける「パン・ペルデュ」の豊富なバリエーションを。生ツバをのみ込みながらページをめくるのだが、と同時に、卵とパンの関係が整理され、頭がすっきりしてくる。
もちろん、具をぎっしりはさむB.E.L.T.サンドイッチやクラブサンドイッチ、人気沸騰中のフルーツサンドイッチも、着眼点を組み立て方に置くことによって、写真、作り方の説明、自分の目、手の動き、さまざまな情報がひとつにつながってゆく。「08 パンと卵のデザート」で、ダメ押し。
パンを手がかりに卵を深掘りする泉のような一冊。黄色い卵って、ただそれだけで幸福な気分に染まりますね。
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