書評
『沖縄の戦争遺跡: 〈記憶〉を未来につなげる』(吉川弘文館)
学び・考え・継承していくための手引書
戦争体験者が県人口の15%を切り、記憶の継承のあり方が「ヒト」から「モノ」へと変化しつつある。本書は平和教育実践、戦跡巡りの現場に立ち、多くの調査、研究を進めてきた著者が、戦争遺跡の見方、考え方をまとめた集大成である。戦後世代の人たちに、どのように地域の戦争を学び、考え、継承していくかのヒントを与える1冊だ。本書において紹介された戦争遺跡は149ヵ所。目次に目を通すだけで多種多様な戦争遺跡があることを実感させられる。戦争遺跡というと真っ先に浮かぶのがガマであろうが、ガマ一つとっても住民避難壕(ガマ)も「集団自決」(「強制集団死」)のガマ、軍民混在のガマ、命を助けたガマ、家族壕・区民壕・患者壕とそれぞれの現場で異なる状況があったことがうかがえる。また戦前、戦中の戦争遺跡と、時系列に分類しているので歴史的背景を理解しやすい。豊富な写真と端的な説明はその理解を後押ししてくれる。地域に存在する慰霊の塔・碑は24基を選んで紹介され、建立の経緯や背景を通じて沖縄戦を考えることができる。
巻末の地図を見るとほぼ全域に戦争遺跡が存在することが一目瞭然だ。つまり私たちの生活の場から遠くない場所に厳然と戦争遺跡が存在しているのだ。本書はどこから開いても構わない。自分の住む場所の近くにある戦争遺跡のページを開き、訪ねてほしい。そしてもう一歩進めて、身近な体験者から話を聞いてほしい。地元の戦争の記憶を深く考え、見方が変わるだろう。
沖縄戦から72年(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2017年)、地域の環境が大きく変貌しながらも、記憶をとどめている戦争の痕跡はいまだに存在するのである。そこに光を当て、意思を持って調べ、記録しなければ戦争遺跡としての価値は生まれない。さらに記録することと併せ、その保存・活用を自治体に求め、文化財指定し、戦争遺跡の歴史的価値を発信することを著者は強調する。「ヒト」から「モノ」へ継承のあり方が変化しても、「モノ」から沖縄戦の実相を知り、教訓を学び、平和を発信するのは「ヒト」でしかないのだ。
[書き手] 瀬戸 隆博 (恩納村史編さん室嘱託員)
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