書評
『だいくとおにろく』(福音館書店)
鬼の名は、おにぎり?
図書館をぶらぶらしていたら「あ、だいくとおにろくだ!」と息子が一冊の絵本を見つけた。NHK教育テレビの「おはなしのくに」という番組で、以前紹介されていた昔話だ。この番組は、俳優さんが一人で、けっこう長いお話を語って聞かせるというスタイル。背景や音響効果、絵による描写も多少はあるものの、基本的には俳優さんの「語り」の力によるところが大きい。正直言って、途中で飽きてしまうものもあった。そんななか、息子と私が釘づけになったのが、ワハハ本舗座長(当時)の佐藤正宏さんによる「だいくとおにろく」だった。
朗読とか読み聞かせというより、これはもう一人芝居だなと思った。大工に代わって橋をかけた鬼は、約束の目玉を渡せと迫る。名前を当てることができたら許してやるというのだが……。
最後の、名前を当てる場面が、このお話で一番盛り上がるところ。佐藤さんの演じる鬼は、鬼なのに人間味があふれていて、とてもチャーミングだった。
借りてきた『だいくとおにろく』を早速読む。鬼の名前をすでに知ることができたのに、何回かわざと間違えて言うところが、やはりおもしろい。
「がわたろうだ」「ごんごろうだな」「だいたろうだっ」……違う名前を読むたびに、息子が嬉しそうな顔をするので、つい調子にのって「じゃあ、おに、おに、おに……おにぎり?」と言うと、ものすごくウケた。こうなると、根が大阪人の私は、さらに張りきってしまう。
「おに、おに……オニオングラタン?」「ちがうー、ワシは食べ物じゃない」「じゃあ、おに……ごっこ?」「遊びでもないわ」「うーん、おに……は、そと?」「豆まいて、どうすんじゃあ」「おに、おに、おにいちゃん?」「おまえは、おとうとか!」「おにいち」「ん?」「おにに」「ちがうちがう」「おにさん」「どきっ」「おによん、おにご、おにしち?」「なんで、ろくをとばすんじゃい!」「そうか、じゃあ、おにろくだ」「うわあー」てな具合。
ヘンな名前を言うたびに、息子は大喜び。次の日など「あの、名前をあてるところから、読んで」と言う。
「おにく?」「だから、食べ物じゃないって」「おにやんま?」「ワシはトンボか」「おにもつ?」「なんだとー」と、母のワルノリは続くのだった。
ちなみに、いくつかの「大工と鬼六」を読んでみたが、「わざと間違える名前」には、ひとつとして同じものがない。
「強太郎(つよたろう)、おん吉、つの兵衛」「権助、権兵衛、権吉」「鬼太郎、鬼次郎、鬼すけ、鬼きち、鬼さく、鬼べい」……。再話をする人も、きっとここは、独自に工夫して、楽しんで書いておられたのだろう。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 2009年4月22日
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