書評
『レオナルド・ダ・ヴィンチ伝説の虚実―創られた物語と西洋思想の系譜』(中央公論新社)
西欧の「隠れた思想史」浮上
『ダ・ヴィンチ・コード』のせいで秘密結社のリーダーという影の顔が定着してしまったレオナルドだが、彼がどの程度オカルトの潮流に関わったかを知りたい人は多いだろう。本書はその疑問に答えてくれる。オカルト的なレオナルド解釈の論拠に、彼が謎の「アカデミア」を率いたという説がある。本書は、それが実在したとしても、修道士や芸術家や学者の趣味的なサークルにすぎず、ましてや新プラトン主義を奉じる秘教的結社などではありえないと結論する。
しかし、これ以降、伝説は独り歩きする。十八世紀には彼はテンプル騎士団やフリーメイスンと関係づけられ、フロイトからは同性愛者として精神分析され、ペラダンの薔薇十字団によって聖杯の守護者に祭りあげられる。『ダ・ヴィンチ・コード』が書かれる要素はすべて整っていた。
こうした解釈を本書はすべて虚像だと論破していく。これらの像が一定の説得力をもつとすれば、それが西欧思想の陰の潮流の反映だからだ。レオナルドはそうした思想の守護神とするのにうってつけの多面的天才だった。それゆえレオナルドを光源にして、西欧の隠れた思想史が浮かびあがってくるのである。
朝日新聞 2006年7月9日
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