書評
『西村和子集』(邑書林)
折々に俳句の愉しみ
日本は際やかに四季が交替して、そのそれぞれに美しい景物や独特の気分がある。さればこそ、『古今集』以下の勅撰集も四季と恋が最大の関心事なのだし、また「俳句」という文芸が発達したのもそのことが大きな要因なのであった。最近私は多く俳句を作る。忙しい日々のなかで、ふと折々の心を折々の風物によそえて俳句にしてみる。そうすると、その時々の気持ちが後に読み返した時にも、鮮やかに甦るのである。下手な日記を書くよりもずっとよいと思うのだ。
さて、今回は数多い俳句集の中から一冊取りあげる。とかく難解独善の句も多い現代俳句の世界にも、伝統的な美意識と風格を持して、しかも平談俗語の芭蕉の教えにも背かぬ作品を作り続けている俳人がある。
西村和子という人である。
本書は西村の自選自註句集で、掛け値なしの名吟揃い。ページを繰るに従って、ああそうそう、と我が胸にも思い当たるところがあり、美しい言葉の、生き生きとした使われ方に深く頷くときもある。しみじみと味わい、うーむと唸り、珠玉の句々に、読み飽きるということがない。
そうして、どれも分かりやすい表現で書かれていて、しかも、通俗月並みでない、と、そこのところが実は非常に難しいのである。句ごとに略注を付して、年代順に配列されているので、おのずから俳人の自伝風にも読めて興趣はつきぬ。以下、句を少々引いて各位の味読に供する。
春宵(しゅんしょう)の乳足りし子を見飽かぬも
熱燗の夫(つま)にも捨てし夢あらむ
タラップを降りて紫雲英(れんげ)の風の中
子の重荷負うてはやれぬ冬灯(ふゆともし)
明易(あけやす)や愛憎いづれ罪ふかき
先斗町(ぽんとちょう)春灯(しゅんとう)洩(も)るも洩らさぬも
初出メディア

スミセイベストブック 2009年6月号
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