書評
『池上彰の宗教がわかれば世界が見える』(文藝春秋)
“宗教本ブーム”の鍵は団塊世代か
最近のベストセラーリストを見ていると、橋爪大三郎&大澤真幸『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書)はじめ宗教関係の本が多いのに気づく。東日本大震災から6カ月、いまだ復興も原発事故収束の道筋も見えないのだから当然かとも思うが、島田裕巳『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)がベストセラーになったのは震災より1年以上も前。宗教本が売れることについて思いをいたすべきなのは、半年前の震災よりもむしろ10年前の同時多発テロなのか。ソ連邦の解体と東欧共産圏の崩壊によってもたらされたのは、資本主義の勝利などではなく、新たな宗教戦争だった。イデオロギー対立による戦争も怖いが、宗教戦争はそれ以上に血なまぐさく、陰惨である。しかし、ほとんどの宗教は人びとの平安と幸福を願うものなのに、なぜそれが深刻な対立をもたらすのか。そこがいまひとつわからない。
『池上彰の宗教がわかれば世界が見える』は、仏教やキリスト教、神道、イスラム教などの研究者や関係者に、その宗教の根本を訊ねるインタビュー集である。島田裕巳や解剖学者の養老孟司へのインタビューもある。
島田裕巳は、団塊の世代が高齢者になったことで、日本人の宗教との関わりかたに大きな変化が起きていると語る。養老孟司は「葬式は要らない」観には批判的で、それがあの世代の「意識中心主義」によってもたらされたものだと指摘する。鍵は団塊なのか。
どの宗教も、それなりに立派なことをいっている。信者が、オラが神様が最高だ、と思うのは当然だろう。だが、その立派であるはずの宗教が、なぜ他の宗教・宗派については不寛容になり、殺人や戦争まで厭わないのかは、本書を読んでもよくわからない。宗教がもたらす狂気としか思えない。
自分が天国に行くためなら他人を殺してもいいなんていう人間は、天国どころか地獄に堕ちて永久に苦しみ続けるだろう、というのが私の宗教観である。
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