書評
『エッシャーの宇宙』(朝日新聞出版)
ビックリ絵本
M・C・エッシャーといえば、階段を上っている人間がいつのまにかその階段を下りていたり、画面の左半分から来た人間には階段となって上ってゆける構築物が、右半分から見るとアーケードの天井になっていたり、そんな不思議な空間を描く画家として知られている。わが国でも、エッシ ャー展は二度にわたって紹介され、すでにいくつかの画集も出ていて、魔法のようなその「不可能な世界」が、若い世代の注目の的となって久し い(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1983年)。『エッシャーの宇宙』の著者ブルーノ・エルンストは、本職はオランダの数学と物理の教師。しかも青少年向きの科学雑誌の編集者としてエッシ ャーと親交があったというだけに、エッシャーの人間的な横顔とともに、その作品の数学的構造を青少年にも分かるように解説してくれる。二百五十余点に及ぶ図版が次々に奇妙な世界を繰り広げるうちに、一見とっぴな思いつき、現実とはかけはなれた幻想の遊戯と見えたエッシャーの不思議の国が、厳密な現実観察と、数学的構造の直観的把握と、忍耐強い職人的手仕事から成り立つ堅固な宇宙であることが、おのずと解き明かされてゆく。本の形をした、不思議なビックリハウスである。
【この書評が収録されている書籍】
朝日新聞 1983年8月9日
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