書評
『死のテレビ実験---人はそこまで服従するのか』(河出書房新社)
視聴者への影響力、綿密に分析
これは、テレビの持つ危険性に警鐘を鳴らす、きわめて刺激的な本である。現実の暴力事件に対して、しばしばテレビの暴力シーンの影響が指摘される。しかし、本書に描かれたテレビの恐ろしさは、そんな単純なものではない。結論は、〈テレビは人を殺す可能性がある〉という、衝撃的なものだ。
フランスのテレビマンと哲学者である2人の著者は、自らその危険性を検証すべく、S・ミルグラムが半世紀前に実施した有名な〈服従実験〉にならって、テレビの新しいクイズ番組を装い、設定を変えて同じ実験を行った。そのリポートが本書である。
解答者(になりすましたサクラ)が答えを間違えるたびに、出題者(クイズ番組と信じる被験者)はレバーを押して、相手に電気ショック(実際には通電されない)を与える。間違えるごとに電圧が高くなり、解答者はどんどん苦痛の色を増していく(ように演技する)。そうした状況下で、出題者はどこまでレバーを押し続けるか、という実験だ。
ミルグラムの実験では62・5%の被験者が、なんらかの葛藤を示しつつも、最高の450ボルトまで、レバーを押し続けた。ところが本書の実験では、なんと81%もの〈普通の人びと〉が、最高ボルトまで操作を続けた、という。これは、実際に通電したとすれば、死にいたる恐れのある強い電流で、それは被験者も承知していた。
学術実験ではなく、単なるテレビのクイズ番組で、人は司会者の指示に従い、レバーを操作し続けた。ナチスのような権威もない、単なる〈テレビというシステム〉の命令に、人びとは服従したのだ。テレビは視聴者に、なぜそうした強い影響力を、及ぼすようになったのか。
その分析結果は綿密で、ミルグラムのリポートよりも、分かりやすい。それだけに、恐ろしさはひとしおだ。
朝日新聞 2011年10月16日
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