書評
『戦闘妖精・雪風(改)』(早川書房)
異質な知性との戦い
きのう紹介した野阿梓が入選第1席を射止めた第5回ハヤカワ・SFコンテスト(1979年)で佳作に選ばれたのが、神林長平「狐と踊れ」。薬を服(の)みつづけないと体から胃袋が逃げ出してしまうという奇妙な未来社会が独特のタッチで描かれる。この異色作でSFマガジンにデビューした神林長平は、その2カ月後、同誌79年11月号に、受賞第1作となる短編「妖精が舞う」を寄稿する。これが、日本SF史に残る名作《戦闘妖精・雪風》シリーズの始まりだった。南極大陸に突如出現した直径3キロの霧の柱。この超空間通路を抜けて、謎の異星知性体ジャムが地球に侵攻する。反撃に転じた人類は、通路の向こうに発見された惑星フェアリイに、超国家的な実戦組織FAF(フェアリイ空軍)を派遣し、基地を建設。かくて、30年におよぶ人類とジャムとの戦争がはじまった……。
以上がシリーズの基本設定。高度な情報処理能力と自律的な知性を持つ戦術戦闘電子偵察機スーパーシルフ〈雪風〉と、パイロットの深井零が主役をつとめる。特殊戦に所属する彼らの任務は、たとえ同僚を見捨てる結果になっても、ひたすら戦闘を記録し、敵の情報を収集しつづけること。
リアルなディテールとクールな戦闘描写がSFファンの熱烈な支持を集め、84年にはシリーズの短編「スーパー・フェニックス」で星雲賞日本短編部門を受賞。全8編の短編連作を1冊にまとめた『戦闘妖精・雪風』は、翌85年の星雲賞日本長編部門を受賞した(現行版は、加筆訂正を施して、2002年にハヤカワ文庫JAから出た『戦闘妖精・雪風〈改〉』)。1999年に出たシリーズ第2作『グッドラック』も翌年の星雲賞日本長編部門に輝き、2009年には第3作『アンブロークン アロー』が刊行された。
つねにSFの最先端を飛びつづける《雪風》は、異質な知性とのコミュニケーション、人間と機械の関係から、「知性とは何か」、「人間とは何か」という根源的な問題まで突き詰めながら、高いエンターテインメント性を失わない。世界に誇るべき、日本SFの代表作だ。
西日本新聞 2015年7月30日
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