書評
『微笑む人』(実業之日本社)
不可解な殺人動機と心の闇
エリート銀行員の仁藤俊実は、妻子を水難事故に見せかけて殺害した容疑で、逮捕される。仁藤は、最終的に容疑を認め、その動機を「本が増えて家が手狭になったから」と主張する。通常ではありえない動機に、警察は真実を語らせようと追及するが、仁藤は頑固に供述を変えない。物語は、事件に興味を持った小説家が、勤務先の同僚や知り合いの女性、学生時代の友人らを歴訪し、仁藤の隠された人間像をあぶり出していく手法で、進められる。仁藤は、だれもが認める模範的な銀行員だが、なぜか過去にその身辺で何件か、不審な未解決事件が発生している。果たして彼は正義の味方なのか、それとも異常犯罪者なのか。この小説には、いわゆるミステリー的な解決がない。人はだれも、不可解なものに無理やり理屈をつけ、納得しようとする。それが真実かどうかは、だれにも分からない。
著者はむしろ、そうした人の心の闇に目を向けよ、と訴えかけているようだ。
朝日新聞 2012年11月4日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
ALL REVIEWSをフォローする










































