書評
『読書のデモクラシー』(岩波書店)
本書を読んでいて、いつかこういう気分で言葉に出会ったことがある、こんなふうに楽しく、こんなふうにドキドキしながら、こんなふうに嚙みしめるように……と思いつづけていた。その「いつか」を思い出すのには、少し時間がかかった。なぜなら私は、小説か随筆を読んだときのことかと思っていたから。そうではなく、その「いつか」は、十代のはじめごろ使っていた日記帳の、付録のページにあった。
日記帳の後ろのほうには、さまざまな国の、人生や愛に関する格言、小説の一節、あるいは花言葉などが、何ページにもわたって載せられていた。日記を書くよりも私は、そのページをぼんやり眺めるほうが好きで、会うたびに新しい表情を見せる言葉たちと遊んでいた。あの楽しさに似ている。
本書は、数多くの引用から成り立っている。本や言葉をめぐるさまざまな文章が、備忘録風に綴られており、著者の思いが簡潔に述べられている。一つ一つは短いのだけれど(というよりも、短いからこそ?)行間に湛えられているものの深さを、感じずにはいられない。
つまり、第一章「読む」では、私たち自身が読み、第二章「聞く」では、私たち自身が書物の声を聞き、第三章「考える」では、私たち自身が考える。そうしなくては、本書を半分しか読んだことにならないのではないか、と思う。……と、思ったとき、はっとした。
本来、読書とはそういうものだったはずである。ただ内容を受け入れ、理解するだけでは半分なのだ。そこから自分が何を思い、何を考えるか。その一つの実践のあとを鮮やかに見せながら、さらに読者を挑発してくるのが、この本の心憎いところ。
いかがです?挑発されませんか。
【この書評が収録されている書籍】
日記帳の後ろのほうには、さまざまな国の、人生や愛に関する格言、小説の一節、あるいは花言葉などが、何ページにもわたって載せられていた。日記を書くよりも私は、そのページをぼんやり眺めるほうが好きで、会うたびに新しい表情を見せる言葉たちと遊んでいた。あの楽しさに似ている。
本書は、数多くの引用から成り立っている。本や言葉をめぐるさまざまな文章が、備忘録風に綴られており、著者の思いが簡潔に述べられている。一つ一つは短いのだけれど(というよりも、短いからこそ?)行間に湛えられているものの深さを、感じずにはいられない。
つまり、第一章「読む」では、私たち自身が読み、第二章「聞く」では、私たち自身が書物の声を聞き、第三章「考える」では、私たち自身が考える。そうしなくては、本書を半分しか読んだことにならないのではないか、と思う。……と、思ったとき、はっとした。
本来、読書とはそういうものだったはずである。ただ内容を受け入れ、理解するだけでは半分なのだ。そこから自分が何を思い、何を考えるか。その一つの実践のあとを鮮やかに見せながら、さらに読者を挑発してくるのが、この本の心憎いところ。
1ページの本はない。一枚の紙はすでに2ページなのだ。
『ギネス・ブック』。政治からライフスタイルまで、理念も、不幸も、芸術もなべて、数量、数値でしか語られないし、ニュースといえば数字と統計ばかりの、奇妙な時代にふさわしい『神曲』。
消費をささえるのが、商品の価値よりしばしば商標の価値であるように、読書は、いまでは経験ではなく、話題なのだ。
言葉の誤用というのは、意味をまちがえるということではない。言葉を、何か信じられないものにしてしまうということだ。
そこには、手袋のような言葉だけがのこっている。手をさしいれていないときも手袋であり、手をさしいれているときも手袋であるような。しかし、この言葉は、手にほかならない「私」をついに語らない。
いかがです?挑発されませんか。
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朝日新聞
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