後書き
『深夜快読』(筑摩書房)
あとがき
「おかあさん」「ん」
「おかあさんてば。あした遠足でお弁当いるんだけど」
「ん?」
「ちえっ、また無視された」
「ん」
三つのときから読書病に罹っている。本の中の人物に憧れ、本を読んで世界を旅し、地球の反対側の人びとの暮らしに思いを馳せた。心弱く落ち込むときも、本のおかげで立ち直った。ゆかいな、さっぱりした気分になることができた。
しかし書評をなりわいとすれば本は頭の上から勝手に降ってくる。締切もある。「読書休日」は毎日新聞の書評委員をやめてホッとしたとき成った。本書は懲りずに読売新聞の委員をやっていた主に一九九三-九六年に書いたものである。
ほかに「毎日夫人」に毎月書いたもの、全集の月報や文庫本の解説を加え編んでみた。編集については筑摩書房の金井ゆり子さんにお世話になった。
深夜快読。ようやく家事が片づき、子どもたちが寝しずまる。さあこれからが私の時間、とワクワクしながら本を読んできた。しかしそれで良い書評がかけたかどうか……。「台所仕事や育児からかすめとった時間で芸術家になれると思うのは幻想だ」。このメイ・サートンの言葉を、三人の子持ちの主婦でもある私は銘記しよう。
同じような悩みをかかえる本好きな仲間にこの本を贈りたい。
一九九八年四月
森まゆみ
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