書評
『天使の自立』(アカデミー出版)
これより面白い本はあるよ
こんちわ。おひさしぶり。諸般の事情により、「退屈な読書」が戻って来てしまった。申し訳ない。とにかく、連載再開一回目なので、面白い本をとりあげたいとタカハシは思った。だが、最近、ぜんぜん本を読んどらんので知り合いに「なんか面白い本なーい」とたずねてみた。そしたら、偶然というかなんというか、たずねたふたりが同時に同じ本を推薦したのである。
銀座でチーママをやっているりえさん(二十三歳、板橋在住)の返事は、
「『天使の自立』って面白いみたいよ、わたしも買ったわ」
そして、渋谷のボディコンクラブ「リー」のハナコちゃん(二十歳、住んでいるのは中野のウィークリーマンション)はわたしにヘネシーの水割りを作りながら、「よくわかんないけど、『天使の自立』が超オモシロイみたいよ。シドニィ・なんとかって人が書いたのよねえ、ミキ! あら、指名がかかっちゃったから、またね、タカハシさん」
ここで重要なのはふたりが読んでいないのにタカハシに推薦したことである。これは相当面白いものである可能性が高い。わたしは橋本治氏と共に、次の言葉を「マーフィーの法則」に入れるべきだと以前から考えているからである。すなわち、
「人は、読んでいない本については正確な批評ができる」
かくして、ブリーダーズカップ観戦のためノースウエスト機に乗ったタカハシのバッグの中には『天使の自立』上下二巻がしっかりとおさめられていたのであった。
さて、『天使の自立』(アカデミー出版)といえばシドニィ・シェルダンである。「超訳」である。五百万部売っていつもベストセラートップである。今回まで、この「超訳」本を手にとらなかったことについて、わたしに偏見があったことは否定しない。
しかし、タカハシもプロの読者だ。ひとたび、頁をめくる段になれば公平無私であることだけはお約束できる。
飛行機が水平飛行に戻り、シートベルト着用のサインが消えるや否や、タカハシは『天使の自立』を取り出した。
とりあえず、この本は旅行用には大きすぎる。それから、装帽のセンスはあまりないな。帯はというと、
「これより面白い本があったら教えて欲しい」
まあ、いいや。そして、タカハシは読んだ……以下・略……読み終えたのは四時間後である。ふう。では、感想にいこう。簡単にいうと、
「もっと面白くなるのに残念だ」ではないか。
確かに、この本は「面白くなりそう」な雰囲気に包まれている。そして、タカハシも一瞬、そのマジックに魅せられそうになる。だが、その度に、妙に説明的な箇所が出現して、タカハシを夢から覚ましてしまうのである(たとえば、上巻の三五四~五頁)。これは、もしかして「翻訳」ではなく読みやすくするために中身も変えてしまったという「超訳」の弊害ではないのか。ああ、それから弁護士のジェニファーがいつも同じパターンで勝ち、いつも同じパターンの失敗を繰り返すのも飽きるぞ。でも、これも「超訳」のせいで作者のせいではないのかもしれない。それから、カーチス・ランダル三世の認知裁判で唇を舐める癖が同じだから明らかに親子だとわかることになってるが、いくらなんでもそりゃないよ。でも、これも「超訳」のせいかもな、そういうわけで、これより面白い本はいくらでもあるから教えてほしかったら連絡ください。じゃあね。
【この書評が収録されている書籍】
ALL REVIEWSをフォローする










































