書評
『私も女優にしてください』(太田出版)
日本はAVの国なんだ!
今回とりあげるのは『私も女優にしてください』(バクシーシ山下編、太田出版)である。バクシーシ山下はいうまでもなく、AV(アダルトヴィデオ)監督界の鬼才、AVのパゾリーニ(ブニュエル? フェリーニ?)だ。彼の撮影記録『セックス障害者たち』も一度とりあげた。だから二度目の登場となる。永沢光雄にも『AV女優』と『風俗の人たち』で二度登場していただいている。こうしてみると、わたしはAVや風俗に強い関心を抱いているように見えるのだが、実際強い関心を抱いているのである。
永沢光雄は『AV女優』でAV女優へのインタビューをしている。そして、「AV女優」のマスクの裏に個人の声を聞き取ってくるという奇跡的な仕事をした。
実は、この『私も女優にしてください』も『AV女優』とよく似ている。たくさんのAV女優が出てくるところも、彼女たちにインタビューするところも同じ(ヌードのプロフィル写真とプロフィルカードが添えられているところが違う)。だが、読んだ印象はというと、これほど正反対の本があるのか!――というぐらい違うのである。
永沢光雄の対象はパッケージに名前の載るいわゆる「単体」女優だ。こういう可愛い女の子がAVに出ているのかとびっくりするぐらいの女優たちである。バクシーシ山下はそういう女優には興味を持たない。
『私も女優にしてください』に出てくるのは「企画物」と呼ばれるAVに出てくる、その他大勢の女優たちである。彼女たちは、はっきりいって、あまり可愛くなく、いや十人並みですらなく、時には肉体的魅力すらなく、だからといって特にAVに出たかったわけでもなく、強いていうなら誘われたしお金も欲しかったしなんとなく脱いでなんとなくAVをやっている。ということは、ほとんど大した理由もなく、カメラの前で性交をしているわけで、わたしならずとも、読んでいるうちに「そんなことでいいのか?」といいたくなるが、さらに読み進んでいくとだんだん彼女たちに感化され、世界に対して無感動になっていくようでたいへん恐い。だが、なにより恐いのは、彼女たちこそもっとも日本人らしい日本人ではないかと思えてくることなのだ。
山下 だから・・・・・・「ただ、なんとなく」っていうのがあるんじゃないかな。こっちが「なんでAVやってるの?」って聞いても、「なんとなく」って言葉以外に出て来るのは「ギャラがいいから」ってことになっちゃうから。その「なんとなく」を言葉にちゃんとできる人は、あんまりAVに出ないのかも知れない。
――たしかに、格好とか見ても、いわゆる“そのへんにいる子”ですからね。新宿を一時間も歩いたら、この子に似た子なんてうじゃうじゃいるでしょう。
山下 愛読書が「JJ」ですからね。
――それで、好きなブランドはシャネル、最近買ったのはプラダのバッグ。
山下 だから「JJ」を読むこと自体がAVギャルへの第一歩なんですよ。
――そう言う山下さんだって、相変わらず毎号読んでるんでしょ?
山下 読んでますよ。あれはひどい。
――どこがひどいんですか?
山下 物欲を煽るだけ煽って、手に入れる方法は買うしかないわけだから。そうすると金が必要になってくるわけで、そこでみんなAVギャルになっちゃうわけですよ。だって、この子の場合、一カ月の収入が五万円ですよ。そんなんじゃあ、なかなかバッグも買えないですよ。
――それはそうですけど……
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