書評
『いきもの人生相談室 動物たちに学ぶ47の生き方哲学』(山と渓谷社)
迷っているヒマなんてない 今を生きろ!と檄(げき)が飛ぶ
時代がどんなに変わっても、ひとの悩みは尽きまじ。人生相談は煩悩のるつぼ。人生相談欄の老舗、読売新聞「人生案内」は百年以上、一九一四年から続いているというからすごい。しかし、です。一世紀にわたって、各界の識者がああでもないこうでもないと知恵を絞ってきたところへ、本書は涼しい顔で乱入。だって回答者が全員動物なんですよ!
快刀乱麻。読んで納得、知って納得。副題は「動物たちに学ぶ47の生き方哲学」。思いやりとか気遣いとか忖度(そんたく)とか、ややこしさが介入する余地がないぶん痛快きわまりない。
ほんのさわりです。
Q「会社に親友と呼べる友達がいません。社会人ってみんなそんなもの?(25歳/女性)」
A 回答者→“海のリアリスト”カクレクマノミさん
大人になってからの交友は 友情だけでは続きません。
クマノミさんは、自分をさらけ出してアドバイス。
私の親友はイソギンチャクですが、言ってしまえば見返りのある友情関係。私は小さな魚なので外敵がわんさかいます。でも毒をもつイソギンチャクのそばにいればすぐ逃げ込めます(私は体から粘液を出して彼らの毒発射を抑えています)。お返しに私はイソギンチャクの外敵を追い払いますので、彼らは安心して触手を広げ、のびのび日光浴。
ウィン・ウィンの関係が友情を長続きさせるキモというわけで、オトナの事情もスッキリ。動物は生存競争のマラソンランナー、中途半端に甘えていたら、相手の足を引っ張りかねない。
目からウロコのサバイバル術、続々。えっ、と驚くのはオオミノガさん。「仕事が忙しく、出会いがありません。一生独身かと思うと寂しすぎます」と相談する36歳の女性に、オオミノガ、つまりミノムシさんが「あなたに足りてないのは 出会いじゃなくてフェロモンかも」。ん? 枝にぶら下がっているだけじゃないの? ところがミノムシさんは言います。
メスはミノの下側から頭を突き出し、フェロモンを放出。(中略)そこで首尾良く相手が見つかれば交尾・出産となります。家から出ることなく男を呼び寄せるフェロモンの威力、すごくないですか?
ミノムシがそんなやり手だったとは。ホント勉強になります。
家族、恋愛、仕事、学校の悩みにズバズバ答えるアフリカゾウ、ホンヤドカリ、オオハクチョウ、アオウミウシ、ニホンアマガエル、チョウチンアンコウ、ラッコ、ザトウクジラ、インドクジャク……海千山千の面々。それぞれの生態や行動からはじき出された回答は、辛辣(しんらつ)で現実的。迷っていたら生きていけない。
著者の小林百合子さんが本書を書くきっかけになったのは、乾季のアフリカのサバンナで、敵と味方の関係であるはずのライオンとシマウマが肩を並べて水を飲む光景だったという。
彼らの人生モットーは『今を生きる!』ですから、答えはとてもシンプルなはず。
悩みという迷路に潜りこまず、今を生きろ。動物たちが、ホモ・サピエンスを全力で励ます。
受験に失敗した18歳男子に、トラさんはバッサリ。
ずっと勝ち続ける者などいない。次の勝負に備えて、食って寝ろ。
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