書評
『階級社会』(講談社)
格差論の極北
格差論ブームだが、本書は、いまのブーム格差論とは大きくちがう視角を押し出す。近年の「格差社会」や「不平等社会」といった用語は、「現象を表現するものにすぎず、問題の本質を社会科学的に表現したものとはいえない」、「階級」という用語こそ現代日本社会の格差や不平等を読み解くキーワードだというのである。こういうのも、著者はマルクス主義社会学者であり、格差社会論ブームがはじまるはるか前、総中流社会が合唱されるころから、日本は明確な階級社会であることを一貫して論じてきたからである。日本の学者たちは「階級」という言葉を避け「階層」や「無階級社会」などといいつづけ、いままた「階級」をさけ「格差」を使用するという著者の階級(隠蔽(いんぺい)への)ルサンチマン(立腹)が基調となっている。
そこで著者は、「社会階層と移動全国調査」などを独自に分析することにより、現代日本の階級を「資本家階級」(従業員規模5人以上)「旧中間階級」(従業員規模5人未満)「新中間階級」(専門・管理・事務)「労働者階級」(それ以外の被雇用者)の四階級から成り立っているとする。つぎに経済格差をそれぞれの階級内部の格差と階級間の格差での経年変化でみる。階級内部の格差よりも階級間の格差が拡大し、労働者階級の貧困率が増大していることをデータから明らかにする。かくて単なる経済格差の拡大ではなく、「階級格差の拡大であり、日本の階級社会化」がおきているとする。
階級社会(化)という言葉だけをみると、教条的マルクス主義本のようにおもえるかもしれない。しかし、論証は実証的で手堅く、2章や3章でふれられている東京論や梶原一騎論など映画や漫画の読みが鋭く深い。階級社会という古い皮袋に新しい酒がそそがれているから、著者と立場がちがう者にも読みごたえがある。格差論を徹底して追求するなら階級社会論はさけてとおれないことをつきつけた技あり本。
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