書評
『母親!』(朝日新聞社)
アメリカの母親のいま
母親たちがどんなに多くの悩みをもち、どんな思いをして育児に、仕事に、家庭に関わっているか、アメリカの母親のそのありったけが記されている本である。十八歳から八十歳まで千百人の母親について、九十項目の質問を行って調査した結果によっている。回答率七九パーセントとは驚きだが、回答した母親たちが実に熱心であることには、さらに驚かされる。
「あなたは、母親の子供への愛は、他人への愛とどのように違うと思いますか?」
「これまでに母親であることが最も受け入れがたく感じられたことは何ですか。書いてください」
といったすぐには答えにくいであろう質問に、彼女らは克明に答え、書き記しているのである。日ごろのうっぷん、思いを調査票にぶっつけたものであろうか。
著者はそれらを整理して、五部二十五章にまとめて解説を加えつつ、母親たちの肉声を紹介している。母親の感ずる喜びや怒りや苦しみについて、母親の負うべき責任について、子供への評価や夫の協力についてなど、まことに多岐にわたって切々たる願いや自己主張の数々が載っている。
解説は心理学者らしいコメントで押しつけがましいところがなく、翻訳も平易な文章で読みやすい。六百ページを超える本だが、その厚さは全く苦にならない。母親たちにとっては育児書の役割も果たしそうである。
「よい母親がよい母親になれる女性を育てるとは限らない」
といった解説などはなるほどと思わされる。様々な言い分は全く正反対の主張であったりするが、全体から読みとれるのは、アメリカの母親たちも、日本の母親たちと同じ悩みをかかえているのだ、という共通性である。
たとえば、
「子供が何をしようとも、母親は子供を愛するわ。父親は愛情に条件をつけるわね。子供たちがどうであっても、援助を惜しまないというわけではない。よい子である時だけ子供が好きなのよ」
遠くから見守るような愛情では不十分だと、母親たちはこぞって述べる。日本の母親との違いと言えば、実に堂々と自分の言い分を述べるか、述べないかの違いだけであろうか。
いや、日本の母親も調査をしてみれば、それも思いこみに過ぎないのかもしれない。
考えてみると、これまであまりにも母性といったものを神聖視し過ぎてきたのではないか。母親像を勝手につくってそれを母親たちに押しつけてきたように思う。これからはこうした母親たちの肉声をもっと聞き、母親を取り巻く社会や家庭がどうあったらよいか、考えてゆかねばならないだろう。
本書は、世の父親にこそまず読んでほしい。
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