書評
『DV--殴らずにはいられない男たち』(光文社)
暴力夫たちの典型像とは
まるでミステリーのようだ、といったら当事者たちは怒るだろうか。豊田正義の『DV――殴らずにはいられない男たち』は、夫婦間暴力の当事者たちに取材したルポルタージュ。夫たちのほとんどは、妻に暴力をふるったことを反省し、後悔している。殴ってはいけないと知りつつも止められない。そのことに傷つき、打ちひしがれている。ここまでなら、ふーん、殴る方も苦しんでいるんだ、と思っておしまいかもしれない。ところが著者はウラを取りに行く。殴られる妻の話も聞く。すると事態は別の表情を見せる。夫の証言には微妙なデフォルメがあるのだ。再度夫を取材すると、今度は暴力を正当化するような態度が見えてくる。心の底から悔い改めてなどいないのだ。もちろん全員がそうだというわけではないけど。
誰にだって暴力衝動はある。だけど、多くの人は自分の中でなんとか丸め込み、折り合いをつけている。それはトライ・アンド・エラーの繰り返しで身につけるしかない。妻を殴る夫たちは、何らかの理由でそのトレーニングを積んでこられなかった。つまり子供なのだ。子供が結婚してはいけない。
収録はわずか四例ながら、暴力夫たちの典型像が浮かんでくる。自意識過剰で自己評価が高く、外面もいい。その実、「男らしさ」だの「〜ねばならない」的幻想にとらわれている。
殴るのは夫だけでない。母親が、父親が、そしてときには祖父母までが、幼い子供を虐待する。しかし、『連鎖・児童虐待』(東京新聞特別報道部著、角川oneテーマ21)から見えてくるのも、幻想にとらわれ、暴力衝動を抑えられない子供のような親たちだ。子供が子供を産んではいけない。
ところで、「DV(ドメスティック・バイオレンス)」という呼称は嫌だな。「セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)」もそうだけど、どうして「夫婦間暴力」「家庭内虐待」とか「性的いやがらせ」といわないんだろう。
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