内容紹介
『パチンコ産業史―周縁経済から巨大市場へ―』(名古屋大学出版会)
パ知の巨人
文化人・知識人がパチンコを語り尽くすインタビュー企画
『パチンコ産業史』でサントリー学芸賞を受賞した経済学者、韓載香
日本人にはできない経験が違った視点を与えてくれた
――『パチンコ産業史』の執筆に至った経緯をお願いします。韓 研究者になることもパチンコを研究することも、来日当時は予測できなかったことです。ただ、自分が見て感じてきたことがこの研究にかなり影響しているとは思います。後で気づいたことですが、韓国人の私が日本に適応していくのと同じように、前例のなかったパチンコが社会の一要素になっていくプロセスには無数の試行錯誤があるのではないかという視点になりました。私自身の経験がそんな視点を与えてくれたわけです。
――その前に『「在日企業」の産業経済史』を上梓しています。
韓 私は韓国人なので在日韓国・朝鮮人の研究をするのは当然と思われるかもしれませんが、パチンコ産業も含めて在日韓国・朝鮮人の産業や企業を研究するための資料はあまりなく、難しいと思っていました。ただ、日本に来た当時の私は日本語ができずバイト先にも困るような状況で、ある種の移民社会で生きていたのですが、日本人にはその世界が認識できない、ということが気になりました。私にしか見えない、日本人にはできない経験があったことが研究の方向性に影響したと思います。
――研究の決定的な動機は?
韓 大学院でサスキア・サッセンという有名な社会学者がニューヨークを舞台に書いた移民社会の本をたまたま読んだのですが、そんな私の経験は個人的な理由によるものではなく、社会構造的な、また国際的なバックグラウンドがあるからだということがわかったのです。サスキア・サッセンと同じようなことを私は日本でできないかと考えたのが第一歩で、結果として在日韓国・朝鮮人がテーマになりました。でも研究していくうちに日本政府が発行した統計資料は情報が限られていることがわかり、サスキア・サッセンのような研究を経済学的に進めるのは難しいと考え、歴史的に研究した成果がその『「在日企業」の産業経済史』というわけです。
明らかにしたかったのは産業の成長の「エンジン」
――そして昨年上梓した『パチンコ産業史』も、まず事実の研究から始まったわけですね。韓 イメージが先行して理解されてきましたので、事実発掘から始めました。ただ、たとえば社会学的に、または歴史として書くならば、在日韓国・朝鮮人という要素は重要です。もちろんそういう描き方もあったと思うんですけど、この本では、なぜパチンコがこれだけ大きい産業になったのか、つまり成長や発展を牽引した「エンジン」の部分を描きたかったんです。車に例えるなら中核になる仕組みを、事実を書くにあたってまず明らかにしていきました。
――最も重要な部分ですね。
韓 サービスを提供する企業と、それを評価して買う客が両方ないと産業は維持できません。それが成り立つには、客の消費意欲を駆り立てる必要があります。そのためには、提供する側が在日韓国・朝鮮人かどうか、お客さんが日本人かどうかとは別に、サービスの中身と技術革新が生まれるシステムの「エンジン」を理解しなければなりません。まず、そこを書くことにしたのです。
――昨年2月に発売され、同年サントリー学芸賞を受賞しました。
韓 まったく予想していませんでした。仕事柄、研究してきたことを公共財として社会に還元するのが当たり前なので本書の執筆依頼を引き受けましたが、限られた資料しかなく産業全体の話はとてもできないので、「この本はまとめようがない」というのが本音でした。しかも、このテーマは経済学では当然メジャーなものではないですし、研究者はもちろん一般読者の目に留まることもないと思っていました。
――しかし、研究量が膨大であることが一目でわかります。
韓 読み手が引いてしまうレベルですよね(笑)。「こんな細かい話、どうでもいいよ」と思われるかもしれないと考えながらファクトに拘って書きました。その結果の受賞でしたから、ただただ驚いています。
研究テーマのひとつとして講義で話すことも
独創的で優れた研究や評論を行った著作、そしてその著者に対して贈呈されているサントリー学芸賞。昨年末、韓准教授の『パチンコ産業史』は、2018年度の政治・経済部門で同賞を受賞した。第40回という節目の回での表彰となった。パチンコは特殊な産業である、という従来の一般的な認識とは一線を画し、普遍的な説明の仕方がなされている点、他の産業においても枠組みとして理解することができる点、これまでになかった独自性が評価されての受賞だったという。
高く評価されたユニークなテーマだけに、韓准教授は講義でもパチンコの話をするのだろうか。
「一般教養の講義でパチンコのことを全面的に出すことはないのですが、在日韓国・朝鮮人の起業の話をするときには半期の15回の講義の中で2回ぐらいパチンコの話をします。」(韓准教授)
ただ、学生の反応は微妙だという。
「昔と違って今の学生はあまりパチンコをやらないようなので、話をしても反応があまりないですね。パチンコを通してどのような重要なことがわかるかについてのこちらの説明にも原因があるのかもしれませんが」(韓准教授)
[書き手]龍太郎
[話し手]韓載香(はん・じぇひゃん。1971年韓国・ソウル市生まれ。北海道大学大学院経済学研究院准教授。)
初出メディア

パチンコ必勝ガイドメガ盛 2019年2月号
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