書評
『レギュラーになれないきみへ』(岩波書店)
控えに甘んじた事実は乗り越えなくてもいい
ぜひとも検索してほしいのだが、飯川雄大の映像作品に「ネクストファイヤー」という、少年から大人まで、サッカーチームの控え選手をひたすら映し続ける作品がある。熱心に応援していたかと思えば、次の瞬間に上の空にもなる。表情の変化を拾い上げた作品に、中学3年間、控えゴールキーパーに甘んじていた自分の記憶が刺激される。本書を書店で見かけ、呼びかけられた気がして手に取ったが、「なれなかったきみ」ではなく、「なれないきみ」に向けた一冊だった。スタメンになれなかった野球部員にスポットをあて、その後、どう飛躍していったかを追う。控えに甘んじた頃の心の揺れ動きは、先に紹介した映像作品を言語化したかのよう。
甲子園の常連校ともなれば、部員数も多く、8割以上が補欠選手の場合も少なくない。私たちが甲子園で目にしてきた、涙と汗が入り交じった青春の1ページの背後に、ページをめくれない部員が無数にいるのだ。
ベンチ入りできない3年生のための試合「ラストゲーム」を行う流れが広まっているそう。その試合を企画・運営する塩見直樹さんが、「自信満々で高校に入ってきたのに、鼻も心も折られ、野球を嫌いになっていく選手をたくさん見て」きたことがこの取り組みを思いついたきっかけだと語る。この頃に折られた鼻や心って、回復が難しい。
それでもめげなかった選手たちが紹介される。ボールボーイをしながら「早く試合が終わってくれればいいのに」と思ったが、そのうちに「腐るか肥やしにするかは本人次第」と気づいた選手などなど。私は「本人次第」とは思わぬまま、「この試合、負けないかな。負けたら、来週は休日が潰れずに済む」とつぶやいたまま、部活を終えた。これはこれで、後悔していない。
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