書評

『奪われた集中力: もう一度〝じっくり〟考えるための方法』(作品社)

  • 2025/07/11
奪われた集中力: もう一度〝じっくり〟考えるための方法 / ヨハン・ハリ
奪われた集中力: もう一度〝じっくり〟考えるための方法
  • 著者:ヨハン・ハリ
  • 翻訳:福井 昌子
  • 出版社:作品社
  • 装丁:単行本(352ページ)
  • 発売日:2025-06-04
  • ISBN-10:4867930903
  • ISBN-13:978-4867930908
内容紹介:
★作品社公式noteで「イントロダクション」公開中→「奪われた集中力 試し読み」で検索!■今もっとも注目を集めるジャーナリストの一人、ヨハン・ハリの邦訳最新作「薬物と依存症」「うつ病と… もっと読む
★作品社公式noteで「イントロダクション」公開中→「奪われた集中力 試し読み」で検索!

■今もっとも注目を集めるジャーナリストの一人、ヨハン・ハリの邦訳最新作
「薬物と依存症」「うつ病と不安症」に続き、現代最大の「文明病」に挑む

■世界100万部、隣国韓国で25万部の大ベストセラー
豊かな時間を取り戻したい、すべての人の必読書

以前に比べて仕事も読書も集中できない。
でも、スマホは片時も手放せない。
――なぜ、こんなことになってしまったのか?

現代人全員が、何かしら頭を悩ませている「集中力の喪失」はなぜ生じているのか?
世界各地の専門家や研究者250人以上に取材し明らかになったのは、私たちの集中力はただ失われたのではなく「奪われ」ていること、そして必要なのは個人的な努力にとどまらず、社会全体で「取り戻す」取り組みであるということだった。

仕事ではマルチタスクに追い立てられ、休日はSNSとショート動画に費やしてしまう、だけど本当はじっくり集中して、豊かな人生を取り戻したい、すべての人の必読書。

■社会全体の注意力が危機にさらされていることについて、ヨハン以上に深く、包括的に考えている人をほかに知らない。……本書を手に取り、腰を落ち着けて、集中して読んでほしい。 ――ナオミ・クライン(『ショック・ドクトリン』著者)
『ニューヨーク・タイムズ』ベストセラー、『フィナンシャル・タイムズ』『ニューヨーク・ポスト』ほか各紙の「ベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー」に選出!

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【目次】
イントロダクション メンフィスを歩く
第1章 原因1――速度、スイッチング、フィルタリングの増加
第2章 原因2――フロー状態のマヒ
第3章 原因3――身体的・精神的疲労の増加
第4章 原因4――持続的な読書の崩壊
第5章 原因5――マインド・ワンダリングの混乱
第6章 原因6――あなたを追跡して操作する技術の台頭(その1)
第7章 原因6―あなたを追跡して操作する技術の台頭(その2)
第8章 原因7―残酷な楽観主義の台頭
第9章 もっと深い解決策の最初のひらめき
第10章 原因8――ストレスの急増と、過覚醒を引き起こす仕組み
第11章 素早い対応が求められて疲弊する――これを逆転させる方法を思いついた職場
第12章 原因9・10――食生活の乱れと汚染の悪化
第13章 原因11――ADHDの増加と向き合い方
第14章 原因12――子どもの監禁(肉体的にも精神的にも)
結論 アテンション・リベリオン(注意力の反乱)
注意力を向上させるための取り組みをすでに始めている団体
謝辞/原注/訳者あとがき

さまよう気持ちを許容する心の余裕

本を手にとり、350ページか、原稿の締め切りから逆算して、これくらいの時間があれば読み切れるなと頭の中でスケジュールを組み立てる。読み始めたものの、スマホでメールのやりとりをして、喫茶店に置かれている雑誌に浮気する。雨が降りそうだが傘がない。天気予報をチェックする。こうしてなかなか読み進められない。

今、私たちはとにかく集中力がない。こっちを優先したらどうか、手短に楽しめるよ、という誘惑が常に入り続ける。どうすれば操られずに済むだろうかと考えながらも、手にはスマホが握られている。

本書に収録されている調査によれば、米国の大学生は平均して65秒ごとにタスクを切り替え、社会人が一つのタスクを続ける平均的な時間は3分だった。失った集中力と注意力をどうすれば取り戻せるのかを探る一冊だが、著者自身がその力の欠落に直面し続ける。

注意力が散漫になった社会では、ネットのショッピングサイトの「読み込みペースが一〇〇ミリ秒遅くなるだけでも、商品を買おうとページを見続けていた人がごっそりページを離れてしまう」。読み込みペースを遅らせないようにするばかりか、さらに素早くすることに心血を注ぐ。やがて、そのスピードにも消費者が慣れていく。

善悪が即座に決まる社会では、立ち止まって考える行為は、単に要領が悪いだけとされてしまう。問題解決力と問題を即断する力は異なるはずだが、全員が集中力を欠いた状態ではその検証さえ難しい。常に気が散っているので、広告やマーケティングの世界で進む「監視資本主義」への危機感も薄まる。自分の取捨選択が他人に握られているのに、自分で選択したと思い込んでしまう。

スーパーマーケットに行くと誰もが悩む。トマトを買いに来たけど、こっちのピーマンのほうが安いし美味しそう。冷蔵庫の中身を思い出し、先の予定を考えながら、どちらにするかを考える。人間の営みはこの連続だが、思考する力が落ちれば、腐りかけの野菜を売りつけられてしまうかも。「本を読んで理解するには、気持ちがさまようことを許容するだけの心の余裕が必要なのだ」とある。読書だけではなく、私たちはもっとさまよいながら、自分の決定に時間をかけなければいけない。

「アテンション・リベリオン(注意力の反乱)」なる言葉が出てくる。為政者が問題を先送りさせるためには、有権者の注意力を削るのが効果的だ。新しいスローガンや政策を投げ、興奮してもらえばいい。何人もの顔が浮かんでくる。

自分で選び抜いたと勘違いさせるのがもっとも不満が出にくい。「ストレスの増大、労働時間の増大、より侵襲的なテクノロジー、睡眠不足、食生活の乱れ」など、集中力と注意力を奪うものはひとつではない。誰もが自己分析を求められる本だが、まずは、そのための時間を確保するところから始めなければいけないのがしんどい。その過程でまた、こっちを優先したらどうか、と何かしらが囁(ささや)いてくる。必死にはね除ける。

……と、この原稿を書くまでに1時間弱。動画を見たり、耳かきしたり、もらった名刺の整理を挟んでしまった。みなさんは、この書評、別の作業をせずに頭から最後まで読み通してくれただろうか。
奪われた集中力: もう一度〝じっくり〟考えるための方法 / ヨハン・ハリ
奪われた集中力: もう一度〝じっくり〟考えるための方法
  • 著者:ヨハン・ハリ
  • 翻訳:福井 昌子
  • 出版社:作品社
  • 装丁:単行本(352ページ)
  • 発売日:2025-06-04
  • ISBN-10:4867930903
  • ISBN-13:978-4867930908
内容紹介:
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■今もっとも注目を集めるジャーナリストの一人、ヨハン・ハリの邦訳最新作
「薬物と依存症」「うつ病と不安症」に続き、現代最大の「文明病」に挑む

■世界100万部、隣国韓国で25万部の大ベストセラー
豊かな時間を取り戻したい、すべての人の必読書

以前に比べて仕事も読書も集中できない。
でも、スマホは片時も手放せない。
――なぜ、こんなことになってしまったのか?

現代人全員が、何かしら頭を悩ませている「集中力の喪失」はなぜ生じているのか?
世界各地の専門家や研究者250人以上に取材し明らかになったのは、私たちの集中力はただ失われたのではなく「奪われ」ていること、そして必要なのは個人的な努力にとどまらず、社会全体で「取り戻す」取り組みであるということだった。

仕事ではマルチタスクに追い立てられ、休日はSNSとショート動画に費やしてしまう、だけど本当はじっくり集中して、豊かな人生を取り戻したい、すべての人の必読書。

■社会全体の注意力が危機にさらされていることについて、ヨハン以上に深く、包括的に考えている人をほかに知らない。……本書を手に取り、腰を落ち着けて、集中して読んでほしい。 ――ナオミ・クライン(『ショック・ドクトリン』著者)
『ニューヨーク・タイムズ』ベストセラー、『フィナンシャル・タイムズ』『ニューヨーク・ポスト』ほか各紙の「ベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー」に選出!

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【目次】
イントロダクション メンフィスを歩く
第1章 原因1――速度、スイッチング、フィルタリングの増加
第2章 原因2――フロー状態のマヒ
第3章 原因3――身体的・精神的疲労の増加
第4章 原因4――持続的な読書の崩壊
第5章 原因5――マインド・ワンダリングの混乱
第6章 原因6――あなたを追跡して操作する技術の台頭(その1)
第7章 原因6―あなたを追跡して操作する技術の台頭(その2)
第8章 原因7―残酷な楽観主義の台頭
第9章 もっと深い解決策の最初のひらめき
第10章 原因8――ストレスの急増と、過覚醒を引き起こす仕組み
第11章 素早い対応が求められて疲弊する――これを逆転させる方法を思いついた職場
第12章 原因9・10――食生活の乱れと汚染の悪化
第13章 原因11――ADHDの増加と向き合い方
第14章 原因12――子どもの監禁(肉体的にも精神的にも)
結論 アテンション・リベリオン(注意力の反乱)
注意力を向上させるための取り組みをすでに始めている団体
謝辞/原注/訳者あとがき

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年6月14日

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