前書き
『明日の自分が確実に変わる 10分読書』(集英社)
塾に通わず現役で東大に合格。現在は国語講師として、学生からシニアまで幅広い層に教える著者。芸人のエッセイから絵本、話題のビジネス書、時間のかかる哲学書まで、幅広く読むが、モットーは「立派な本に限らなくてもいい。『へえー』と、気づきが得られたり、心が動く部分がひとつでもあればいい」。見栄や義務感とは無縁で、日常をもっと楽しく充実させる、等身大の読書術。
[書き手]吉田裕子(国語講師)
スキマ時間の読書でも、心が動けばOK
「手始めに、どんな本から読めばいいですか?」国語講師をしていると、受講生からよく聞かれる質問のひとつです。そのたびに私は「好きな本を読んでください」と答えるのですが、相手にはキョトンとされてしまいます。きっと、「王道」「正統派」「正解」を答えてもらえると思っていたのでしょう。もちろん、私なりにおすすめの本はあります。本書でも、本文中で随時おすすめの本に言及しますし、各章末にもテーマ別に推薦書を挙げています。しかし、それは単に、私のおすすめ。万人にとって常に「正しい」選択ではありません。読書に正解はありません。ですから、「あの本は読んでおかないと恥ずかしい」とか「最低でもこれは読んでおかなくちゃ」という“呪い”から、まずは自由になりましょう。自分が気になる本を選ぶ。読みたいなと素直に思った本を読む。名作でなくても、文学史に残るような古典作品でなくても、まったく問題ありません。「この本を読まなければ出会えなかった」――そういう言葉や世界観との出会い。日常生活にはいないキャラクターの登場人物との出会い。それらによって、自分の中の何かが動く。影響されて新たな行動が引き出される。思い出の意味づけが変わる。そうしたことこそが、読書の価値です。何冊読んだかも気にする必要はありません。それよりも心の動き、身体の動きの方がずっと大切です。読書に慣れてきて、自分が読みたい本を読み尽くしたとき、より広い世界に出会ったり、知らない分野を覗いたりしたくなるかもしれません。そのときには、道しるべとして、本書のおすすめを始め、様々な「読書案内」を活用するといいでしょう。たとえば、●憧れの著名人や友人がすすめる本 ●各出版社が選ぶ「夏の100冊」などの書籍リスト ●文学史の年表に掲載されている作品 ●世界や日本のベストセラー など参考にできる本のリストはたくさんあります。ただ、これらから読書生活をスタートしなくては、と思わないでください。意気込んで「リスト制覇!」なんて目標を掲げてしまうと、たいてい挫折してしまいます。本は義務感で読むものではありません。他人に見栄を張るものでもありません。ただ、自分の心が動けばいい。身体が動けば、さらにいい。何を読むかよりも、あなた自身が何を得るかの方がずっと重要なのです。今、読みたい本を読みましょう。それが、そのときの唯一の「正解」です。[書き手]吉田裕子(国語講師)
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