書評
『白い人びと―― ほか短篇とエッセー』(みすず書房)
死は虚無ではなく目覚めなのだ
子供に大人には見えないものが見えるのは、生まれる前の、だからまだ生が死と未分化な状態の記憶が残っているからなのか。表題作「白い人びと」の主人公イゾベルは、小さな子供さながら死を現実的に想像できない。スコットランドの辺鄙な古城に暮らす彼女は、幼いころから折々目にしてきた〈白い人びと〉が周囲の者には見えていないことに気づく。作家ヘクターと結ばれ、〈白い人びと〉と初めて出会ったヒースの茂る丘の中腹を愛する夫と歩くとき、イゾベルは不意に、圧倒的な歓喜と美に光輝く「何ものにも捉われない自在さ」の感覚に包まれる。
死とは恐ろしい虚無ではなく目覚めなのだと悟るイゾベルには、児童文学の名作『小公女』や『小公子』の作者として知られるバーネットの死生観が反映されているのだろう。生と死がたがいを否定しない本書の世界においては、鳥も麦粒も庭の草花もみな等しく美しい魂を持ち、人の魂と親しげに交流する。
朝日新聞 2013年07月14日
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