書評
『ララバイ』(早川書房)
乳幼児突然死症候群の取材をしていた新聞記者のストリーターは、死亡した赤ん坊の親たちが全員『世界の詩と歌』という本を図書館から借りていたという事実を突き止める。やがて、その中の一編、アフリカ起源の子守歌には、聴いたものを秒殺する魔力があることが判明。もし、この歌がラジオやテレビで流されてしまったら? ストリーターは「間引きの歌」の秘密を知る幽霊屋敷専門の不動産業者ヘレンや、魔女崇拝者のモナ、環境テロリストのオイスターと共に、聴覚を介して伝染する疫病ともいうべき歌が載っている詩集をすべて処分するため、アメリカ横断の旅に出るのだが――。
暴力、セックス、信仰といった、人間の根源的な欲望に抵触するテーマの真芯を刺し貫く問題小説ばかりを世に問うチャック・パラニュークの新作が描くのは、命の対価がとんでもなく安くなった世界の荒廃と、「それでもここには愛が残ってるんだぜえぇっ」という破れかぶれだけど切実な魂の叫びなのである。絶対的権力を持つ堕落した支配者たちが、自分たちの悪徳を隠蔽するために、大衆の想像力を退化させるよう画策し続けているこの腐った世界にあって、「間引きの歌」を手に入れたら、わたしは、あなたは、どうするだろう。そんな危険な夢想から生まれた小説なのだ。
エキセントリックな登場人物が跋扈(ばっこ)するこのロード・ノベルは、暴力や殺意の行使の正否を問いかけ、剣呑(けんのん)な小説だ。まさに今だから書かれ、読まれるべき作品。死んだほうが世のため人のためになる悪党がいたとして、そいつを間引かないでいい理由がどこにあるのだろう。読んでしまったが最後、そんなリスキーな問いかけが頭から離れなくなる。無視できないほど危うい魅力を放つデスソングであると同時に、ストリーターとヘレンをめぐる歪(いびつ)な愛を描いた究極のラブソング。死と愛という古典的なテーマを内包しながら、二十一世紀にしか生まれようがなかった新しい小説なのである。
【この書評が収録されている書籍】
暴力、セックス、信仰といった、人間の根源的な欲望に抵触するテーマの真芯を刺し貫く問題小説ばかりを世に問うチャック・パラニュークの新作が描くのは、命の対価がとんでもなく安くなった世界の荒廃と、「それでもここには愛が残ってるんだぜえぇっ」という破れかぶれだけど切実な魂の叫びなのである。絶対的権力を持つ堕落した支配者たちが、自分たちの悪徳を隠蔽するために、大衆の想像力を退化させるよう画策し続けているこの腐った世界にあって、「間引きの歌」を手に入れたら、わたしは、あなたは、どうするだろう。そんな危険な夢想から生まれた小説なのだ。
エキセントリックな登場人物が跋扈(ばっこ)するこのロード・ノベルは、暴力や殺意の行使の正否を問いかけ、剣呑(けんのん)な小説だ。まさに今だから書かれ、読まれるべき作品。死んだほうが世のため人のためになる悪党がいたとして、そいつを間引かないでいい理由がどこにあるのだろう。読んでしまったが最後、そんなリスキーな問いかけが頭から離れなくなる。無視できないほど危うい魅力を放つデスソングであると同時に、ストリーターとヘレンをめぐる歪(いびつ)な愛を描いた究極のラブソング。死と愛という古典的なテーマを内包しながら、二十一世紀にしか生まれようがなかった新しい小説なのである。
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