書評
『ものがたる近世琉球: 喫煙・園芸・豚飼育の考古学』(吉川弘文館)
人々の生活浮き彫りに
本書は、発掘されたモノ、つまり考古学的手法で、近世の琉球諸島を〝モノ語ろう〟という試みです。筆者いわく、近世琉球の「トレンチ調査をおこなってみた」。トレンチ調査とは、考古学の手法で、全てを掘り起こすことが困難な場合、ここぞという地点に穴(トレンチ)を掘り、全体を推測する方法です。タイトルの通り、おもに3項目の琉球文化を掘り下げて、近世という時代を推測しようというわけです。これが実に興味深く楽しい。例えば、園芸について。沖縄本島より発掘調査で見つかった「植木鉢」に着目します。主に出土する輸入品である貿易陶磁器と、琉球国内産の2種類。このうち国内産では、16世紀前半より現在の沖縄県庁舎あたりで作られていた、瓦質土器製の植木鉢と、これに続くとされる、17世紀あたりから壺屋などで作られる無釉陶器製(いわゆるアラヤチとして知られる)の植木鉢がありました。しかも、植木鉢が見つかるのは、首里城やその周辺、そして浦添グスク、今帰仁グスクなど限られた場所。つまり士族たちのいる都市部ですね。今でいうプランターでの園芸を楽しんでいる、琉球士族たちの姿が浮かんできました。
また、真玉道跡では、完品に近いアラヤチ植木鉢が見つかっていて、沿道に置かれた装飾としてのお花だろうかと著者は推測しています。さらに、植木鉢の模様に着目し、視点を琉球周辺にまで拡大させます。すると中国産植木鉢、薩摩産植木鉢から、東アジアでの園芸の系譜まで見えてきます。植木鉢の模様から時間軸と空間軸で謎解き、近世琉球を浮き彫りに・・・。
この島に生きた我々の先輩方は、海を越えてとにかく動いていたのだなと、あらためて感じました。本書では、考古学だけでなく、文献調査や民俗調査も駆使し、名もなき近世琉球の人々の暮らしを浮き彫りにし、現代につなげて見せてくれます。トレンチからのぞいた近世琉球人の暮らしは、万華鏡のようにキラキラとした面白さでした。
[書き手] 賀数 仁然(かかず ひとさ・琉球歴史家)
ALL REVIEWSをフォローする