書評
『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』(国書刊行会)
珍重すべきミステリーの古典
まことに珍重すべき、ミステリーの古典である。著者はコナン・ドイルと同時代の作家で、ホームズもののパロディーを書いたこともある、という。主人公のウジェーヌ・ヴァルモンは、フランスの刑事局長の座を追われ、ロンドンに渡って私立探偵になる。その、破天荒な活躍を描いた連作短編集。本書は、〈我輩(わがはい)〉という一人称で書かれており、往年の保篠龍緒訳のアルセーヌ・ルパンものを思わせる、軽妙な語り口が心地よい。これは訳者のお手柄だろう。何より、ヴァルモンの気取った、それでいて憎めないキャラクターが、いちばんの収穫だ。ビクトリア朝の時代色が、よく出ている。捜査方法など、英仏のお国柄の違いを論じるおしゃべりも、おもしろい。
提示される謎と解決は、どれも古さを感じさせず、総じてルパンものより合理的である。中でもヴァルモンが、犯人一味の青年にやり込められる、「うっかり屋協同組合」は失敗談にもかかわらず、愛すべき小品に仕上がっている。
昔ながらの、読書の楽しみを思い出させてくれる、佳味あふれる作品集である。
朝日新聞 2011年1月16日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
ALL REVIEWSをフォローする








































