書評
『「戦間期」の思想家たち レヴィ=ストロース・ブルトン・バタイユ』(平凡社)
第一次大戦後の仏知識人の動向を検証
著者は、この三部作の第一巻にあたる『戦争の世紀』で、第一次世界大戦という未曽有の現象を分析した。本書は、その戦後から第二次大戦直前まで、フランスの若き知識人の思想と行動を描く。テーマは「既成秩序破壊」だ。一九二四年、二十二歳のアンドレ・マルローは、カンボジアのアンコールワット遺跡を盗掘して、有罪判決を受ける。四年後、彼が書いた小説はオリエンタリズムを煽ると同時に、フランスの植民地主義を批判していた。ヨーロッパ文化への懐疑が噴出し始めていたのだ。
ほぼ同じころ、二十三歳の社会党の活動家が県会議員選挙にうって出ようとする。無免許運転で事故を起こし、立候補をあきらめたこの青年の名は、レヴィ=ストロースといった。彼は政治革命の道をすて、ブラジルへと旅だつ。『贈与論』のモースに影響を受け、民族学者になろうと考えたのだ。彼はのちにヨーロッパ中心の思考を根本的に批判する。
戦間期は政治の季節でもあった。シュルレアリスムの指導者ブルトンは、革命ロシアから追放されたトロツキーへの敬愛の念を深めながら、トロツキストを放逐したフランス共産党の党員となる。この矛盾に、著者は、有名なナジャとブルトンの不幸な恋愛の傷跡を読みとっていく。この論証は本書の白眉といえよう。
ブルトンの論敵となったバタイユは、マルクス経済学を生産の合理性を過大視するヨーロッパの理性中心主義として退ける。モースの『贈与論』以降の民族学的研究を視野に入れれば、人間の経済活動の根源にあるのは、非合理な消費への欲求なのである。バタイユは、ポストモダンと呼ばれる現代社会の経済原理を予見していたようにさえ思われる。
またバタイユは、革命を消費の究極の形としての破壊だと見た。このバタイユの革命観は、既成秩序破壊を叫ぶファシズムの精神的土壌と通じるものがある。
かくして、ファシズム=政治の耽美主義化の極まりとして戦争が出現する(ベンヤミン)。本書の主役たちも戦争を逃れることはできない。その顛末は完結編である次作に描かれるはずだ。
朝日新聞 2004年5月9日
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