書評
『赤い糸の呻き』(東京創元社)
事件を解決に導く推論の応酬
カルトなファンが多い本書の著者は、ミステリーに本来なじまないSF的な展開や、超論理的解決を持ち込んだことで、評価が分かれるかもしれない。それを新しい工夫とみるか、アンフェアな手法とみるかは、読者の判断にゆだねられるだろう。ただし、この作品集はそうしたSF的手法を用いず、純粋のパズラーになっている。都筑道夫の「退職刑事」シリーズを思わせる、対話中心の構成をとる。つまり、もっぱら対話者の推論の応酬によって、事件を解決に導く〈安楽椅子〉ミステリー、といってよかろう。ことに、表題作の「赤い糸の呻き」は、論理の逆転に逆転が続いて、大いに楽しめる。
特筆すべきは、登場人物の会話が生きいきして、眼前にその場面が浮かび上がることだ。実のところ、小説の会話は現実のそれとは違うものだが、近年は両者が限りなく近づきつつあり、本作品集はその一致を巧みにやり遂げた好例、といっていいだろう。
朝日新聞 2011年10月9日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
ALL REVIEWSをフォローする










































