内容紹介
『誰も行ったことのない場所へ行こう。そして誰もやらなかったことをやろう。逆境を苦しんだ僕からの31のメッセージ』(祥伝社)
明日は何が起こるかわからない――。ライフネット生命保険創業者で、立命館アジア太平洋大学(APU)学長も務めた出口治明さん。72歳で突然の脳出血に倒れるという逆境に苦しんだ経験から、若い人に伝えておきたいメッセージをまとめた書籍『誰も行ったことのない場所へ行こう。そして誰もやらなかったことをやろう。逆境を苦しんだ僕からの31のメッセージ』を刊行しました。今回はこの本から一部を抜粋編集してお届けします。
M e s s a g e 8
僕が好きな言葉のひとつに「一期一会」があります。言葉の由来は、千利休の弟子の山上宗二の著にある「一期に一度の会」、一生に一度限りであることを意味する言葉ですね。この言葉は、至言でしょう。
また次があると思っていても、その次は確実に訪れるものではありません。
だからこそ、チャンスはその場でつかむもの。チャンスを逃さないことが大事なのです。
もちろん、人生の終わりの間際にどんな心境になるのかは、死んだことがないのでわかりません。脳出血で死にかけたことはありますが、本人は死ぬと思っていなかった(というより、そんなことを考える余裕はありませんでした)ので、心境も何もありませんでした。
しかしその「ゴール」を前にした自分を想像してみると、そこから逆算した生き方を考えることができます。
それとは逆に、もう人生に先がないとわかったときに「あれをやっておけばよかった」「これもできたはずなのに」などと悔やむことになるのは、残念です。何から何までやりたいことをすべてやるのは難しいので、まったく悔いの残らない人生はないかもしれません。人生がいつ終わるかはわかりませんから、間に合わずにやり残すこともあるでしょう。
でも、できるだけ悔いは少ないほうがいい。「やりたいこと」をやるより、そちらのほうが大事かもしれません。期限を設けて期間内にやりきることも大事ですね。たとえ何事かを成し遂げられなかったとしても、「やればよかった」という悔いさえなければ、それなりに納得して死ねるのではないでしょうか。
だからこそ、人生で大切なのは「チャレンジ」することだと思います。チャレンジさえしていれば、それが失敗に終わっても悔いは残りません。「あのとき思い切ってチャレンジしておけばよかった」――死ぬ直前にそんな思いをしないように生きるのが、人生を満ち足りたものにする上で最良の道でしょう。
そのために心がけるべきは、「チャンス」を逃さないことです。自分の目の前にチャンスが巡ってきたときに、それをつかむかどうか。失敗をおそれて「次のチャンスを待とう」と思っていたら、もうチャレンジの場は得られないかもしれません。
かくいう僕にも、チャンスを逃して悔やんでいることがあります。もう30年以上も前、生命保険会社の社員としてロンドンに勤務していたときのことです。
スペイン北部のビルバオに出張したのですが、帰りに乗る予定の飛行機が航空会社のストライキで欠航になってしまいました。翌日の午前中には重要なミーティングがあるので、どうしてもそれまでにロンドンに戻らなければなりません。
いろいろ検討した結果、ビルバオからフランス国境まで車で行き、そこから高速鉄道でパリに向かい、朝一番の飛行機でロンドンに戻ることにしました。思いがけない「チャンス」が訪れたのは、ビルバオからフランス国境に向かう車中でのことです。
窓の外をぼんやりと眺めていると、こんな表示が目に入りました。
〈ゲルニカまであと10キロメートル〉
ほう、と思いました。パブロ・ピカソが描いた壁画『ゲルニカ』の舞台となった村です。ドイツ空軍による1937年の無差別爆撃をテーマとして描かれたこの作品は、反戦シンボルのような存在になりました。
ゲルニカの村そのものは、とくに見るべきものはありません。それは本で読んで知っていました。
でも、なにしろあのピカソの代表作の舞台です。それがすぐそこにあるなら、ちょっと見てみたくなるのが人情というものでしょう。航空会社のストライキは僕にとって不運でしたが、そのおかげでゲルニカまで10キロメートルまで近づくことができました。しかも車で移動しているので、寄り道は可能です。「災い転じて福となす」とはこのことです。
でも、僕はゲルニカへの立ち寄りをやめておきました。そもそもストライキという想定外の事態から始まったことです。不慣れな土地でのことですから、この後の道中も何が起こるかわかりません。翌日の会議は欠席が許されませんから、安全策を取るべきです。ビジネスマンとして、きわめてまっとうで合理的な判断でした。
ただ、そのとき僕の頭の中には、こんな思いもありました。「ロンドンに駐在していれば、ゲルニカにはいつでも来られるだろう」
つまり、チャンスはいくらでもあると思ったのです。見るべきものがないのはわかっているのですから、わざわざそのためにスペインまで行く気にはなりません。でも何かのついでに寄り道する機会はまたあるだろうと思いました。
しかしその後、ゲルニカを訪れるチャンスはいまだに訪れていません。おそらく30年前のあのときが、「一期一会」の機会だったのでしょう。そうだとわかっていれば、時間的にはそこそこ余裕があったので、ゲルニカにちょっと立ち寄ったことでしょう。
「チャレンジ」というほどの話ではないかもしれません。でも、目の前のチャンスを見送ると悔いが残るのはたしかです。
この経験は、僕にとって大きな教訓になりました。それ以降は、旅先では「迷ったら行く」「迷ったら買う」を自分のルールにしています。帰国してから「やっぱりあそこで見つけたあれを買っておけばよかった」と後悔したことのある人は多いでしょう。僕もそうです。
あなたも、チャンスを前にして迷ったときは、自分の後悔体験を思い出してください。チャレンジの機会は、それが最後かもしれません。
まとめ
● 「やればよかった」という後悔は少ないほうがいい
● 何事も、次のチャンスはもう来ないかもしれない
● 迷ったら行こう。迷ったら買おう
[書き手]出口治明
M e s s a g e 8
迷ったら行く
人生は一期一会。人生には終わりがあるし、このチャンスは二度と来ないかもしれない
僕が好きな言葉のひとつに「一期一会」があります。言葉の由来は、千利休の弟子の山上宗二の著にある「一期に一度の会」、一生に一度限りであることを意味する言葉ですね。この言葉は、至言でしょう。また次があると思っていても、その次は確実に訪れるものではありません。
だからこそ、チャンスはその場でつかむもの。チャンスを逃さないことが大事なのです。
「やりたいこと」をやるより、
「やればよかった」という後悔が少ないほうが大事かもしれない
人生は運や偶然に左右されるので、何が起こるかは予測できません。しかし、ひとつだけ確実に予測できることがあります。いつか必ず、人生には終わりが訪れることです。もちろん、人生の終わりの間際にどんな心境になるのかは、死んだことがないのでわかりません。脳出血で死にかけたことはありますが、本人は死ぬと思っていなかった(というより、そんなことを考える余裕はありませんでした)ので、心境も何もありませんでした。
しかしその「ゴール」を前にした自分を想像してみると、そこから逆算した生き方を考えることができます。
それとは逆に、もう人生に先がないとわかったときに「あれをやっておけばよかった」「これもできたはずなのに」などと悔やむことになるのは、残念です。何から何までやりたいことをすべてやるのは難しいので、まったく悔いの残らない人生はないかもしれません。人生がいつ終わるかはわかりませんから、間に合わずにやり残すこともあるでしょう。
でも、できるだけ悔いは少ないほうがいい。「やりたいこと」をやるより、そちらのほうが大事かもしれません。期限を設けて期間内にやりきることも大事ですね。たとえ何事かを成し遂げられなかったとしても、「やればよかった」という悔いさえなければ、それなりに納得して死ねるのではないでしょうか。
だからこそ、人生で大切なのは「チャレンジ」することだと思います。チャレンジさえしていれば、それが失敗に終わっても悔いは残りません。「あのとき思い切ってチャレンジしておけばよかった」――死ぬ直前にそんな思いをしないように生きるのが、人生を満ち足りたものにする上で最良の道でしょう。
そのために心がけるべきは、「チャンス」を逃さないことです。自分の目の前にチャンスが巡ってきたときに、それをつかむかどうか。失敗をおそれて「次のチャンスを待とう」と思っていたら、もうチャレンジの場は得られないかもしれません。
僕がチャンスを逃して悔やんでいること
かくいう僕にも、チャンスを逃して悔やんでいることがあります。もう30年以上も前、生命保険会社の社員としてロンドンに勤務していたときのことです。スペイン北部のビルバオに出張したのですが、帰りに乗る予定の飛行機が航空会社のストライキで欠航になってしまいました。翌日の午前中には重要なミーティングがあるので、どうしてもそれまでにロンドンに戻らなければなりません。
いろいろ検討した結果、ビルバオからフランス国境まで車で行き、そこから高速鉄道でパリに向かい、朝一番の飛行機でロンドンに戻ることにしました。思いがけない「チャンス」が訪れたのは、ビルバオからフランス国境に向かう車中でのことです。
窓の外をぼんやりと眺めていると、こんな表示が目に入りました。
〈ゲルニカまであと10キロメートル〉
ほう、と思いました。パブロ・ピカソが描いた壁画『ゲルニカ』の舞台となった村です。ドイツ空軍による1937年の無差別爆撃をテーマとして描かれたこの作品は、反戦シンボルのような存在になりました。
ゲルニカの村そのものは、とくに見るべきものはありません。それは本で読んで知っていました。
でも、なにしろあのピカソの代表作の舞台です。それがすぐそこにあるなら、ちょっと見てみたくなるのが人情というものでしょう。航空会社のストライキは僕にとって不運でしたが、そのおかげでゲルニカまで10キロメートルまで近づくことができました。しかも車で移動しているので、寄り道は可能です。「災い転じて福となす」とはこのことです。
でも、僕はゲルニカへの立ち寄りをやめておきました。そもそもストライキという想定外の事態から始まったことです。不慣れな土地でのことですから、この後の道中も何が起こるかわかりません。翌日の会議は欠席が許されませんから、安全策を取るべきです。ビジネスマンとして、きわめてまっとうで合理的な判断でした。
ただ、そのとき僕の頭の中には、こんな思いもありました。「ロンドンに駐在していれば、ゲルニカにはいつでも来られるだろう」
つまり、チャンスはいくらでもあると思ったのです。見るべきものがないのはわかっているのですから、わざわざそのためにスペインまで行く気にはなりません。でも何かのついでに寄り道する機会はまたあるだろうと思いました。
しかしその後、ゲルニカを訪れるチャンスはいまだに訪れていません。おそらく30年前のあのときが、「一期一会」の機会だったのでしょう。そうだとわかっていれば、時間的にはそこそこ余裕があったので、ゲルニカにちょっと立ち寄ったことでしょう。
「チャレンジ」というほどの話ではないかもしれません。でも、目の前のチャンスを見送ると悔いが残るのはたしかです。
この経験は、僕にとって大きな教訓になりました。それ以降は、旅先では「迷ったら行く」「迷ったら買う」を自分のルールにしています。帰国してから「やっぱりあそこで見つけたあれを買っておけばよかった」と後悔したことのある人は多いでしょう。僕もそうです。
あなたも、チャンスを前にして迷ったときは、自分の後悔体験を思い出してください。チャレンジの機会は、それが最後かもしれません。
まとめ
● 「やればよかった」という後悔は少ないほうがいい
● 何事も、次のチャンスはもう来ないかもしれない
● 迷ったら行こう。迷ったら買おう
[書き手]出口治明
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