書評

『城下町江戸の町人地: 制度・仕組・構造』(原書房)

  • 2026/02/03
城下町江戸の町人地: 制度・仕組・構造 / 髙山 慶子
城下町江戸の町人地: 制度・仕組・構造
  • 著者:髙山 慶子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(314ページ)
  • 発売日:2026-01-09
  • ISBN-10:4562076518
  • ISBN-13:978-4562076512
内容紹介:
江戸の町は、どのように運営され、どのような人びとが支えていたのか名主制度や町の仕組、町人地の広がり、そして大火と復興まで、江戸の「暮らしの舞台裏」を丁寧に解き明かす。江戸は近世… もっと読む
江戸の町は、どのように運営され、どのような人びとが支えていたのか
名主制度や町の仕組、町人地の広がり、そして大火と復興まで、江戸の「暮らしの舞台裏」を丁寧に解き明かす。

江戸は近世最大の城下町であるが、本書はその城下町江戸の町人地について、制度や仕組、構造の特徴を明らかにしようとするものである。城下町とは、領主の城を中心に、家臣団が居住する武家地、商人や職人の居住区である町人地、寺院や神社が存在する寺社地、などというように、原則として身分ごとに居住地域が分かれるという特徴を有する都市である。武士たちが領地を離れて城(領主)のもとに集まり、そこに商人や職人が呼び寄せられて(あるいは自ら参集して)都市が形成されるという成り立ちは、城下町に固有の現象である。
(本文より)

近世最大の城下町江戸の町人地(商人・職人の居住区)を、豊富な史料に基づき、制度や仕組、構造の特徴を総合的に読み解く研究書。

序章 本書の内容

第一部 町人地の制度と仕組
第一章 江戸の町人地
第一節 城下町の町人地
第二節 江戸の町人社会
第三節 町役人の家

第二章 町の営み
第一節 町人地の特徴
第二節 町運営の実態
第三節 町の財政
第四節 名主の諸相
第五節 町屋敷と地主
第六節 町の住人
第七節 拝領町屋敷

第三章 名主制度の成立
はじめに
第一節 名主の来歴
第二節 当初の役割
第三節 幕府による制度化
おわりに

第四章 江戸町名主の縁戚と交際―深川相川町名主相川家を事例として―
はじめに
第一節 相川家の縁戚
第二節 伊勢谷喜右衛門と相川家
第三節 播磨屋中井家との交際
おわりに

第五章 名主の経済事情と金融
はじめに
第一節 専業の名主役
第二節 江戸の金融業
第三節 馬込勘解由の金融
第四節 名主金融の事例
おわりに

第六章 幕末維新期の江戸・東京における名主の社会的位置
はじめに
第一節 旧名主の転職事情
第二節 名主末裔の記録より
第三節 金融業と銀行業
おわりに

第七章 江戸の拡大と支配制度の変容―代官と町奉行の両支配をめぐって―
はじめに
第一節 幕府負担からみた江戸の町
第二節 町奉行支配の性格
第三節 町の行政
おわりに

補論(書評と紹介)坂本忠久著『近世江戸の行政と法の世界』

第二部 災害からみる江戸の都市構造
第八章 江戸深川猟師町の形成と深川地域の開発
はじめに
第一節 深川猟師町の開発人
第二節 石垣の築造
第三節 本所奉行と深川築地普請奉行
第四節 度重なる浸水被害
おわりに

第九章 明暦の大火
第一節 災害・被害の実態と救済・復興の展開
第二節 明暦の大火をめぐって

第十章 近世都市災害としての大火―江戸と宇都宮の防火体制と町火消の成立をめぐって―
はじめに
第一節 江戸の防火体制
第二節 宇都宮の防火体制
第三節 町火消の成立
おわりに

終章 日本近世史研究における本書の位置付け

あとがき
研究者名索引
人名索引
地名索引
事項索引
図表一覧

幕府に名主、新開発、火事と水害の歴史

近世都市・江戸の研究は現代人に大事だ。木造家屋の密集地での火災・防火体制の研究は必要だし、注目されていないが、台風時の高潮被害の研究は東京湾沿岸低地の安全に不可欠だ。江戸期の高潮を歴史研究せずに、ウォーター・フロントにタワー・マンションを建てるわけにはいかない。テレビ時代劇に、お江戸の町人が頻繁に登場する割に、江戸町人の社会には謎が多い。江戸の政治史や文化史は二次的な文献に残りやすいが、社会史は「江戸住民の一次史料」が分析に必要だから研究が難航してきた。江戸は大火で、東京は関東大震災と東京大空襲で焼かれ、古文書・古記録の残りが極端に少ない。そのうえ戦後の超巨大都市化でも一次史料が散逸した。

私は学部生時代、近世の武家社会史・農村史を専攻したが、町人の社会史も知りたいと、吉原健一郎成城大学教授(当時)の授業を聴き教えを乞うた。吉原氏は気さくなお人柄で何でも即答してくださった。その時分、江戸東京博物館が開館し散逸した江戸の都市史料の収集が始まった。

著者は、この江戸博でも働いていた研究者である。新発見史料が見られたのだから羨ましい。新しい分析を試みている。例えば、隅田川の東は江戸の新開発地だ。そこの深川猟師町の歴史をみると、都市江戸の拡大のさまがわかる。江戸の町名主の暮らしの実態を詳しく解明している。江戸の名主は事実上、世襲だ。夏目漱石も江戸の町名主の家に生まれた。この江戸の名主たちの婚姻・養子の縁戚関係を明らかにしている。名主同士の縁組みが多いが、武家にも縁組みを求め、学芸にいそしんでいた。江戸の名主は商売を兼ねず専業だ。江戸時代は都市の端だった高輪や麻布の名主は年20両の生活費で暮らせたが、日本橋や京橋では60両は必要だったとの研究も紹介されている。今の東京の青山・渋谷あたりの町運営も調べている。家屋敷を持つ「家主(いえぬし)」が毎月輪番で「月番(つきばん)」を務め、お上(幕府)から御触書(おふれがき)がきたら、月番が帳面に控え、町内に触れ回り、隣町に回達した。「月番箱」という町の文書箱があり、人別(にんべつ)帳(戸籍簿)や御触書を写した帳簿・神社、祭礼用の帳簿等がセットで入っており、月番はこれを預かって町の用務をした。

江戸の町は火事に弱い。消防対策費が町の負担になっていた。町ごとに火消し人足を雇っていたせいだ。店(たな)人足という普通住民の消防団には限界があった。1787年から、鳶(とび)人足による建設の高所作業者のより強力な消防が制度化された。町は消防ポンプ担当の竜吐水持ちも雇ったから出費が大変だった。本書には宇都宮の事例もあり、地方城下町の消防研究として貴重だ。江戸は水害も多い。深川が被災した54回の水害をみると、1791年の水害では大潮が入り「深川・本所・亀戸辺で1400人ほどの溺死者」、1865年の大風雨・高潮では深川・本所は「床上浸水5尺(約150センチ)余」だ。

本書を読むと、火と水の災害に常に襲われるなか、江戸の住民たちが相談しあい、幕府役人や世襲名主とやり取りを重ねながら、町の運営に参加し災害にも備える様子がわかる。西洋都市の「市民的自由」とは違う「近世日本型の都市自治」がみえる良著だ。
城下町江戸の町人地: 制度・仕組・構造 / 髙山 慶子
城下町江戸の町人地: 制度・仕組・構造
  • 著者:髙山 慶子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(314ページ)
  • 発売日:2026-01-09
  • ISBN-10:4562076518
  • ISBN-13:978-4562076512
内容紹介:
江戸の町は、どのように運営され、どのような人びとが支えていたのか名主制度や町の仕組、町人地の広がり、そして大火と復興まで、江戸の「暮らしの舞台裏」を丁寧に解き明かす。江戸は近世… もっと読む
江戸の町は、どのように運営され、どのような人びとが支えていたのか
名主制度や町の仕組、町人地の広がり、そして大火と復興まで、江戸の「暮らしの舞台裏」を丁寧に解き明かす。

江戸は近世最大の城下町であるが、本書はその城下町江戸の町人地について、制度や仕組、構造の特徴を明らかにしようとするものである。城下町とは、領主の城を中心に、家臣団が居住する武家地、商人や職人の居住区である町人地、寺院や神社が存在する寺社地、などというように、原則として身分ごとに居住地域が分かれるという特徴を有する都市である。武士たちが領地を離れて城(領主)のもとに集まり、そこに商人や職人が呼び寄せられて(あるいは自ら参集して)都市が形成されるという成り立ちは、城下町に固有の現象である。
(本文より)

近世最大の城下町江戸の町人地(商人・職人の居住区)を、豊富な史料に基づき、制度や仕組、構造の特徴を総合的に読み解く研究書。

序章 本書の内容

第一部 町人地の制度と仕組
第一章 江戸の町人地
第一節 城下町の町人地
第二節 江戸の町人社会
第三節 町役人の家

第二章 町の営み
第一節 町人地の特徴
第二節 町運営の実態
第三節 町の財政
第四節 名主の諸相
第五節 町屋敷と地主
第六節 町の住人
第七節 拝領町屋敷

第三章 名主制度の成立
はじめに
第一節 名主の来歴
第二節 当初の役割
第三節 幕府による制度化
おわりに

第四章 江戸町名主の縁戚と交際―深川相川町名主相川家を事例として―
はじめに
第一節 相川家の縁戚
第二節 伊勢谷喜右衛門と相川家
第三節 播磨屋中井家との交際
おわりに

第五章 名主の経済事情と金融
はじめに
第一節 専業の名主役
第二節 江戸の金融業
第三節 馬込勘解由の金融
第四節 名主金融の事例
おわりに

第六章 幕末維新期の江戸・東京における名主の社会的位置
はじめに
第一節 旧名主の転職事情
第二節 名主末裔の記録より
第三節 金融業と銀行業
おわりに

第七章 江戸の拡大と支配制度の変容―代官と町奉行の両支配をめぐって―
はじめに
第一節 幕府負担からみた江戸の町
第二節 町奉行支配の性格
第三節 町の行政
おわりに

補論(書評と紹介)坂本忠久著『近世江戸の行政と法の世界』

第二部 災害からみる江戸の都市構造
第八章 江戸深川猟師町の形成と深川地域の開発
はじめに
第一節 深川猟師町の開発人
第二節 石垣の築造
第三節 本所奉行と深川築地普請奉行
第四節 度重なる浸水被害
おわりに

第九章 明暦の大火
第一節 災害・被害の実態と救済・復興の展開
第二節 明暦の大火をめぐって

第十章 近世都市災害としての大火―江戸と宇都宮の防火体制と町火消の成立をめぐって―
はじめに
第一節 江戸の防火体制
第二節 宇都宮の防火体制
第三節 町火消の成立
おわりに

終章 日本近世史研究における本書の位置付け

あとがき
研究者名索引
人名索引
地名索引
事項索引
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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2026年1月31日

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