書評
『遠い足の話』(新潮社)
「移動する作家」独特の視点
いしいしんじさんは移動する作家だ。それはいつも旅しているという意味でもなければ、定住を嫌っているという意味でもない。むろんいしいさんは、旅が好きだろうし、住む場所だって転々としている。でも、事情は少し違うように思う。
ちょっと前までいしいさんは三浦半島の三崎と長野の松本の二箇所に居を構えていた。だから自然に親しむ生活を大切にする人だと、思っていた。いまもそう思っている人も多いのではないか。
でも三崎に住んだのは乗った電車の終点まで行ってみたらそこが三崎だったからだし、松本を拠点にしたのは、結婚の事情があったらしい。
ある場所を訪ねる。そこで見聞した事象に関心を持つ。ついでに住んでみる。そんな軽やかさがいしいさんにはある。嬉(うれ)しいのはそれを文章にしてくれることだ。
ニューヨークを除けばほぼすべての題材が日本の街。東京・六本木から熊本・天草までと幅広い。凄(すご)いのはそのどの場所にもいしいしんじでなければできないような接近の仕方をしていることだ。
小説とは別の、ナマの「いしいしんじ」が感じられる一冊。
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