書評

『文学は割に合う!』(作品社)

  • 2026/08/23
文学は割に合う! / アントワーヌ・コンパニョン
文学は割に合う!
  • 著者:アントワーヌ・コンパニョン
  • 翻訳:本田 貴久
  • 出版社:作品社
  • 装丁:単行本(248ページ)
  • 発売日:2026-03-30
  • ISBN-10:4867931268
  • ISBN-13:978-4867931264
内容紹介:
★作品社公式noteで「訳者あとがき」全文公開中→「文学は割に合う! 試し読み」で検索!世界にはびこる文系不要論に抗し、人間的な豊かさをはぐくむための文学の有用性を説くのみならず、その… もっと読む
★作品社公式noteで「訳者あとがき」全文公開中→「文学は割に合う! 試し読み」で検索!

世界にはびこる文系不要論に抗し、人間的な豊かさをはぐくむための文学の有用性を説くのみならず、その市場価値にまであえて踏み込み、「長期的投資」「遅れてくる利子」としての意義を強調する。フランス文学界の碩学による、抒情的な思索とアイロニカルな語り口に満ちた唯一無二の書。

本を読み、考えるという営みの肯定。

文学・哲学だけでなく、美術、映画、画面上のたくさんのコンテンツも含めた教養は、仕事における目先の作業から距離をとり、自らを客観視し、外部と内部とに同時に存在しながら自らを見つめ、人生を変えるための手助けをしてくれます。もともとのキャリアを超え出るため、方向を変えるため、関連分野へと分化していくため、新しいチャンスをとらえるためには、教養が不可欠なのです。一般教養がもたらすものとは、洞察力とか直感力という別種の知性です。これは優れた犬や狐にみられる勘に近いものなのです。鋭い勘は生まれつきではなく、読書によって養われるものであり、読書は他の経験への入り口となります。読書は勘を養ってくれるのです。困難を切り抜け、立て直すのにこれほど必要なものはないのです。(本書「第14章」より)

さてその夜、ジュリアン・ソレルの冒険に大興奮してしまったので、なかなか寝つけませんでした。(…)母が階下にいて、ダイニングの椅子に座っていました。(…)「寝ないの?」「本を読んでて眠れないんだ」――こんなとりとめない言葉を母と交わしました。そのときようやくわたしは理解したのです――母は死ぬのだと。(…)その夜、文学と生とが、恋と権力とが、そして二階で読む小説のなかにあらわれる野心と一階の母につきまとう苦しみと死とが、対立すると同時にたがいに浸透し、受け入れあっていました。文学が人生すべてだというつもりはありませんが、『赤と黒』がもたらした高揚感がなければ、この小説から得た人生への洞察がなければ、亡くなるまでの三ヶ月間、平常心と鋭敏さを失わずに母のそばに寄り添い続けることはできなかったでしょう。(本書「第15章」より)

訳者として、本書が日本の読者、とりわけ「文学を学ぶ意味はあるのか?」と自問自答する者に、本を読み、考えるという一連の営みを肯定する一助となることを切に願う。文学は、つねに挑まれ傷つき衰えていくものの歴史ではあるが、決して過去の遺物ではない。その歴史を更新し続けることは、現在進行形のものとして文学の生を証しだてすることになる。(「訳者あとがき」より)

【内容目次】
第1章 詩こそはもっとも見返りの多い芸術のひとつ
第2章 教養と美容
第3章 通りを渡る
第4章 文学の欲求
第5章 「本当の人生、それは文学である」
第6章 オルニカールはどこ?
第7章 高等教育ビジネス
第8章 「ピアノを習いなさい、キーボードを叩く練習になるから!」
第9章 忙しいひとびとはまちがっている
第10章 気配りと卓越性(ディスタンクシオン)
第11章 ひとには自分の価値に値する価値があるのか?
第12章 階級に復讐する
第13章 野心とは、有象無象の悪徳ではない
第14章 すべてのひとのための文学
第15章 リホボス・ビーチ
第16章 魔法の直方体
第17章 耳も読む
第18章 読むことは健康のためになる
第19章 自分の人生の作者になるということ
第20章 文学はどこにでも
第21章 詩人たちの恩恵
第22章 マタイ効果
第23章 文学と統計学
第24章 失われた機会
第25章 落ち着いて、またいつでも会えるから!
原註
訳者あとがき

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

とかく「コスパ」だの「タイパ」だのと言われる今日このごろ。フランスを代表する知識人が、文学の意義を多方面から説く。ここでの文学は「教養」と言い換えてもいいだろう。タイトルからも察せられるように、行間からは皮肉を込めたユーモアとペーソスが漂う。

文学がすぐ役に立つわけではないし、文学だけで食べていくのは難しい。「筆一本で生活できる作家はほとんどいません」と著者は断言する。それでも長期的に見れば必ず「割に合う」。このことを著者は、ボードレールやプルーストから最近のオーディオブックまで、さまざまな作家や作品、自身の経験をもとに説く。

たとえば、「普及することになった経済学的・社会学的概念は、およそほとんどが文学的・詩的なものです」と著者は述べ、「セレンディピティ」や「ブラック・スワン理論」といった概念を挙げる。画期的なアイデアを思いついても、それを言葉にできなければ伝わらない。言葉を磨くのが文学であり教養だ。

「教養がある者は、自らの人生の作者となります」という言葉がしみる。
文学は割に合う! / アントワーヌ・コンパニョン
文学は割に合う!
  • 著者:アントワーヌ・コンパニョン
  • 翻訳:本田 貴久
  • 出版社:作品社
  • 装丁:単行本(248ページ)
  • 発売日:2026-03-30
  • ISBN-10:4867931268
  • ISBN-13:978-4867931264
内容紹介:
★作品社公式noteで「訳者あとがき」全文公開中→「文学は割に合う! 試し読み」で検索!世界にはびこる文系不要論に抗し、人間的な豊かさをはぐくむための文学の有用性を説くのみならず、その… もっと読む
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世界にはびこる文系不要論に抗し、人間的な豊かさをはぐくむための文学の有用性を説くのみならず、その市場価値にまであえて踏み込み、「長期的投資」「遅れてくる利子」としての意義を強調する。フランス文学界の碩学による、抒情的な思索とアイロニカルな語り口に満ちた唯一無二の書。

本を読み、考えるという営みの肯定。

文学・哲学だけでなく、美術、映画、画面上のたくさんのコンテンツも含めた教養は、仕事における目先の作業から距離をとり、自らを客観視し、外部と内部とに同時に存在しながら自らを見つめ、人生を変えるための手助けをしてくれます。もともとのキャリアを超え出るため、方向を変えるため、関連分野へと分化していくため、新しいチャンスをとらえるためには、教養が不可欠なのです。一般教養がもたらすものとは、洞察力とか直感力という別種の知性です。これは優れた犬や狐にみられる勘に近いものなのです。鋭い勘は生まれつきではなく、読書によって養われるものであり、読書は他の経験への入り口となります。読書は勘を養ってくれるのです。困難を切り抜け、立て直すのにこれほど必要なものはないのです。(本書「第14章」より)

さてその夜、ジュリアン・ソレルの冒険に大興奮してしまったので、なかなか寝つけませんでした。(…)母が階下にいて、ダイニングの椅子に座っていました。(…)「寝ないの?」「本を読んでて眠れないんだ」――こんなとりとめない言葉を母と交わしました。そのときようやくわたしは理解したのです――母は死ぬのだと。(…)その夜、文学と生とが、恋と権力とが、そして二階で読む小説のなかにあらわれる野心と一階の母につきまとう苦しみと死とが、対立すると同時にたがいに浸透し、受け入れあっていました。文学が人生すべてだというつもりはありませんが、『赤と黒』がもたらした高揚感がなければ、この小説から得た人生への洞察がなければ、亡くなるまでの三ヶ月間、平常心と鋭敏さを失わずに母のそばに寄り添い続けることはできなかったでしょう。(本書「第15章」より)

訳者として、本書が日本の読者、とりわけ「文学を学ぶ意味はあるのか?」と自問自答する者に、本を読み、考えるという一連の営みを肯定する一助となることを切に願う。文学は、つねに挑まれ傷つき衰えていくものの歴史ではあるが、決して過去の遺物ではない。その歴史を更新し続けることは、現在進行形のものとして文学の生を証しだてすることになる。(「訳者あとがき」より)

【内容目次】
第1章 詩こそはもっとも見返りの多い芸術のひとつ
第2章 教養と美容
第3章 通りを渡る
第4章 文学の欲求
第5章 「本当の人生、それは文学である」
第6章 オルニカールはどこ?
第7章 高等教育ビジネス
第8章 「ピアノを習いなさい、キーボードを叩く練習になるから!」
第9章 忙しいひとびとはまちがっている
第10章 気配りと卓越性(ディスタンクシオン)
第11章 ひとには自分の価値に値する価値があるのか?
第12章 階級に復讐する
第13章 野心とは、有象無象の悪徳ではない
第14章 すべてのひとのための文学
第15章 リホボス・ビーチ
第16章 魔法の直方体
第17章 耳も読む
第18章 読むことは健康のためになる
第19章 自分の人生の作者になるということ
第20章 文学はどこにでも
第21章 詩人たちの恩恵
第22章 マタイ効果
第23章 文学と統計学
第24章 失われた機会
第25章 落ち着いて、またいつでも会えるから!
原註
訳者あとがき

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2026年8月8日

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