書評
『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』(サンマーク出版)
“あなたは変われる”と誘惑
開脚するためのストレッチ法の本が大ヒット中。人々は、なぜ突然開脚に目覚めたのか。脚がベタッと開いたからといって何かトクするの? 体が硬いことに劣等感を持つ人が増えてる? ちなみに本書は開脚ダイエットでも開脚健康法でもない。
著者は「開脚の女王」と呼ばれるヨガのインストラクター。冒頭でEiko氏による開脚のためのストレッチ方法が紹介されてはいるが、残りの大部分はおまけの読み物で、誰が書いているのか謎な「開脚小説」である(ここでもストレッチ方法が繰り返される)。
本書にはからくりがある。エクササイズ本の姿を借りた成功哲学本なのだ。小説の部分を読んでみると見えてくる。
登場人物は、すご腕の部長の堀。彼は、部下にも慕われる理想の上司なのだが、こっそり会議後の会議室で開脚をしているところを部下に見られてしまう。
体が硬いことに劣等感があった堀は、開脚のレッスンによって乗り越えて自分に自信を持ち、仕事でも成功を収めていた。以降、開脚が日課になったのだ。堀部長はこう部下に言う。
開脚もできないやつが、何かを成せると思うな
牽強付会(けんきょうふかい)が過ぎる。さすがに無理のある論法だ。小説の出来栄えも素人レベル。だが“ポジティブシンキング”というキーワードを間に挟むと少し理解できるようになる。
信じさえすれば人は何でもできる。本書も、“開脚さえできれば、あなたは変われる”ということを訴えている。
成功哲学、自己啓発書が売れているのは、皆変わりたいと強く思っているから。本書の読者も“自分を変えたい”と思っている人たちなのだ。開脚はあくまで刺し身のツマに過ぎない。
開脚ができれば人生はよくなる? 根拠はゼロ。だが、信じる人は少なくないということ。開脚だけマスターしたい人はEiko氏の430万回再生のユーチューブ動画をどうぞ。
朝日新聞 2016年10月30日
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