一線級アスリートのフィジカルトレーナーを務める清水忍さんは、何歳からでも「最高の体調」を手に入れることができるといいます。そのためのロジカルメソッドを紹介している書籍『60歳で最高の体調』から、一部を抜粋編集してお届けします。
一流のフィジカルトレーナーが、最初に確認する体の動きとは?
フィジカルコーチの清水忍です。私は東京の世田谷区に完全予約制のパーソナルトレーニングジムIPFを開設。メジャーリーガーの菊池雄星投手をはじめ、一線級アスリートのスポーツトレーナーを務めています。主な仕事は、トレーニングの指導をすることです。
ただし、クライアントはプロアスリートやアマチュアアスリートだけではありません。ジムを訪れてくれる人の多くは一般の方で、昨日までほとんど運動をしたことがないという50代、60代、70代の方々もいます。
フィジカルコーチとして多くの人の身体を見てきた私は、クライアントと初めて会うとき、その方のある部分を最初に注目します。それはどこかというと、「歩き方」なのです。
歩き方を見れば、その人の運動習慣のあるなし、今現在の身体のコンディションがわかるからです。
「歩き方」には、あなたの現在の身体の状態が現れる
本人が特に意識していない普段の歩き姿にこそ、本質が現れます。そして、中高年から老年期のクライアントの場合、歩き方のなかでも特に「歩幅」に目を向けます。というのも、歩幅はその人の体力を知る上で重要な指標となるからです。
ぜひ街で、駅の構内で、すれ違う人たちの歩き方を観察してみてください。
人混みの中でもスタスタと自分のペースで歩いて行き、前方や横からスマホなどを見ながらぶつかってきそうになる人が現れても、さっとよけて、何事もなかったように進むことができる……。
こういう人は運動マインドがあり、生活の中で適度に身体を動かしているから体力が維持できています。
一方、周囲に比べて歩くペースが遅く、追い越されてしまっている人。周りの人とすれ違うとき、戸惑ったり、立ち止まったりしてしまう人。こうした人は、年齢に関係なく運動機能が落ちてきてしまっています。
そして、歩き方は、その人が周囲に与える印象にも深く関係しています。
50歳以上は要注意。なぜ、年齢より老けている人は同じような歩き方になってしまうのか?
年齢に関係なく周囲に若々しい印象を与える人と、50代なのに老け込んで見えてしまう人その差は、歩き方です。年齢よりも老けている人に共通するのが、「膝下歩き」です。
これは、靴を引きずるような歩き方。足をほとんど上げず、膝下だけを動かして歩いていく。イメージとしては、膝上あたりをグルッとバンドで括って歩いている状態です。膝から下しか動かせないですよね。これが膝下歩きです。周囲が静かなら、靴と地面が擦すれる音も聞こえてくるはずです。
姿勢は猫背で、前屈かがみ。つま先から着地する傾向があり、歩幅は狭く、ずりずりと歩んでいきます。
なぜそういう歩き方と歩き姿勢になるかというと、それは「片足で立つ時間を極力短くしたい」「余計な力を使わず省エネで歩きたい」という本能的な防衛反応からです。
歩くという動作の本質は、前方への体重移動にあります。
踏み込み、片足で身体を支えながら、次の一歩を踏み出し、前方へ体重を移動させ、前進する。その際、かかとから着地した足でぐっと地面を踏み込み、大股で歩くと、片足で体重を支える時間が長くなります。つまり、私たちが大股ですたすた歩くためには、次の2つの体力が必要になるのです。
①片足で立っているためのバランス感覚
②片足でしっかりと地面を踏み込める筋力
これらの体力が加齢と運動不足によって低下していくと、自然と歩幅は狭くなっていきます。バランスを崩すことへの不安から、常に両足を地面に近づけておきたいという無意識の働きが生まれ、結果として「膝下歩き」になってしまうのです。
事実、アシックススポーツ工学研究所が、3次元足形計測機や歩行姿勢測定システムなどで収集したデータによると、日本人は男女ともに50歳を境に歩く速度が落ち、歩幅が狭い歩き方に変化していく傾向があることがわかっています。 ただこれは統計のデータであって、50歳を過ぎた人全員が生物学的にそうなるわけではありません。活動的ではないことで、歩く速度が落ち、歩幅が狭い歩き方に変化していく傾向があるのです。
歩き方を変えるだけで、勝手に身体は若々しくなる。その理由
では、年齢よりも若々しい印象を受ける人は、どんな歩き方をしているでしょうか。ポイントは、しっかりとした「大股歩き」にあります。足が前方に大きく踏み出され、必ずかかとから着地。目線は前方を見ていて、背筋が伸び、身体ごと前に進んでいく印象を与えます。
こうした「大股歩き」ができている人は、股関節周りの筋肉を効果的に使い、スムーズに前方への体重移動を行なえている状態です。
そして、大股で歩くことにはもう一つ重要な意味があります。じつは股関節周りには、腰の腸腰筋、もものハムストリングスなど、歩行だけでなく、姿勢を保つのに重要な筋肉が集まっています。大股で歩くと、これらの筋肉を鍛えることにもなり、筋力の強化やスタイルアップにもつながるのです。
つまり、若々しい印象を与える歩き方、歩き姿ができている人は、身体そのものも若々しく保てる傾向にあるわけです。
これは年齢が上がったことによる不調ではなく、身体の状態の問題。怪我をしているのなら、医療機関での治療が必要ですが、大きな怪我ではないのに歩くと痛いという人は、歩くという動作を見直すだけで改善する可能性があります。
【著者プロフィール】
清水忍(しみず・しのぶ)
トレーニングジムIPFヘッドトレーナー。アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP)、健康運動指導士。1967年、群馬県生まれ。大手フィットネスクラブ勤務後、スポーツトレーナー養成学校講師を経て独立。「なぜ」を追求するロジカルな指導で、メジャーリーガー・菊池雄星投手らプロアスリートのパーソナルトレーナーとして絶大な人気を誇る。NESTA JAPANエリアマネージャー、菊池投手プロデュースの野球複合型施設「King of the Hill」プログラムアドバイザー。健保組合の糖尿病対策セミナーの指導者、スポーツ・医療系専門学校の非常勤講師としても活動。「Tarzan」監修など多くのメディアで活躍中。『ロジカル筋トレ』『超宅トレ』など著書・監修書多数。
【目次】
はじめに
1章 加齢の通説 3つの「ウソ」
──体力・体型・気力はこうして衰える
2章 正しく「立つ」と「歩く」こと
──70歳でも若い人、50歳で老ける人。それは「身体の使い方」しだい
3章 身体がラクになる7つのロジカルメソッド
──1週間で変化が生まれ、何歳でも動ける身体になる3週間プログラム
4章 身体のしんどさを取り除く5つのポイント
──筋肉をゆるめ、血流アップから始める心身ケア
おわりに