書評
『あのころのデパート』(新潮社)
研修や珍客…独自の目線で
長野まゆみの小説は独特の世界観に染め上げられている。あらゆる小説家の世界は各自オリジナルな世界観の反映だろう、という反論はあろう。ただ、長野さんの小説では、レトロな東京や、もうなくなってしまった風景、お菓子、ファッションなどが、小説世界を構築するための、重要なファクターになっている。だから、長野さんの書くエッセイにはモノに対する彼女の態度が表われていて興味深い。今回のエッセイでは、デパートをめぐる諸事象が対象だ。作家になる前、長野さんは数年、デパートに勤めていた。そのころのことがまず書かれる。いまのデパートの様子も活写される。違いは歴然。ただ、どちらがいいとか悪いとかではない。新入社員研修の今昔、店内放送の曲の意味、雑誌「暮しの手帖」とデパートの関係、消えてしまったデパートの「大食堂」、オーダーカーテンの高級感や奇矯な振る舞いの珍客に至るまで……。
デパートにはこんなに語るべきことがある。なんだかうらやましい気もする。そして、素朴な言い方になるけれど、長野さんの中には深い「デパート愛」のような感情が流れている。ゆっくり読みたい。
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