書評

『余りの風』(みすず書房)

  • 2026/11/07
余りの風 / 堀江 敏幸
余りの風
  • 著者:堀江 敏幸
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:2012-12-04
  • ISBN-10:462207740X
  • ISBN-13:978-4622077404
内容紹介:
「本書『余りの風』は、十数年前に刊行した『書かれる手』とおなじく、さまざまな媒体に発表した批評的な散文をまとめたものだが、両者を貫く細い自問の線の質は変わっていない。文芸時評のよ… もっと読む
「本書『余りの風』は、十数年前に刊行した『書かれる手』とおなじく、さまざまな媒体に発表した批評的な散文をまとめたものだが、
両者を貫く細い自問の線の質は変わっていない。文芸時評のような顔はしているけれど、
分類を拒み、既成の枠からはみ出そうともがいている書法じたいに、あってない、ないけれどあるはずの盲点をこそ
言葉のうちに探ろうとするはかない夢の痕跡が、すでに見て取れる。」(あとがきより)

数々の文学賞を受けて来た堀江敏幸が、自らを育み、力を与えた書き手を読み込む。
作家ならではの触感と、作品の深みに入って行く理路によって、読者はそれぞれの書き手の大切な部分に気付かされる。
文学の先達、多くは「会えなかった人たち」に向けられたエッセ・クリティック。
「余りの風を浴びながら、私はこれからも読み、書きつづけるほかないだろう
――風音の裏側にかすかな「こだま」を聴き取ることのできる、その一瞬の空白に向かって。」
近年最良の文芸評論集と言っても、過言ではない。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

作家の核心を掴んだ批評文

タイトルは小島信夫の言葉から採られている。「余る」ものがあるのだ、と小島は話す。理論や全体から「余る」ものがあって、それを書きたい、と。堀江は深く共鳴する(「共感」ではなく)。

この新しいエッセイ集は堀江の好む作家をめぐる散文を集めている。大学時代の師であった平岡篤頼に始まり、藤枝静男、須賀敦子、小島信夫、古井由吉、吉田一穂、田村隆一と続き、W・G・ゼーバルトやジャック・レダへと到(いた)る。

あえて「批評」と呼びたいこれらの散文は、大仰な言葉で出来ていない。何かを書くとき、人は、多少でも読者の心を揺さぶろうと、激しい言葉を探してみたくなるのだが、堀江にはそうした卑俗な野心がない。

作家の筆の動きに寄り添うようにして書かれた文章は、的確に作家の核心を掴(つか)んでいる。

たとえば藤枝静男が妻との死別の一瞬までを描いた『悲しいだけ』。この作品をめぐり紡がれた文章は、小説の最後の一文を書き写し、その世界を少しだけ拡張する。ほとんど書き加える、といってもいいかもしれない。こんなことは他の誰にもできない。堀江敏幸の批評文の真骨頂である。
余りの風 / 堀江 敏幸
余りの風
  • 著者:堀江 敏幸
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:2012-12-04
  • ISBN-10:462207740X
  • ISBN-13:978-4622077404
内容紹介:
「本書『余りの風』は、十数年前に刊行した『書かれる手』とおなじく、さまざまな媒体に発表した批評的な散文をまとめたものだが、両者を貫く細い自問の線の質は変わっていない。文芸時評のよ… もっと読む
「本書『余りの風』は、十数年前に刊行した『書かれる手』とおなじく、さまざまな媒体に発表した批評的な散文をまとめたものだが、
両者を貫く細い自問の線の質は変わっていない。文芸時評のような顔はしているけれど、
分類を拒み、既成の枠からはみ出そうともがいている書法じたいに、あってない、ないけれどあるはずの盲点をこそ
言葉のうちに探ろうとするはかない夢の痕跡が、すでに見て取れる。」(あとがきより)

数々の文学賞を受けて来た堀江敏幸が、自らを育み、力を与えた書き手を読み込む。
作家ならではの触感と、作品の深みに入って行く理路によって、読者はそれぞれの書き手の大切な部分に気付かされる。
文学の先達、多くは「会えなかった人たち」に向けられたエッセ・クリティック。
「余りの風を浴びながら、私はこれからも読み、書きつづけるほかないだろう
――風音の裏側にかすかな「こだま」を聴き取ることのできる、その一瞬の空白に向かって。」
近年最良の文芸評論集と言っても、過言ではない。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2013年1月9日

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