書評
『ライオンと魔女―ナルニア国ものがたり〈1〉』(岩波書店)
いまさらですが、わたしも「ナルニア」ファンです
タイトルの通りである。わたしも「ナルニア」ファンだ。文句あるか。いや、文句なんかありませんね。
ご存じない方もいらっしゃるかもしれないので、いちおう断っておくが「ナルニア」というと、C・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』全七巻(岩波少年文庫)の舞台である。わたしは、時々、本棚から一巻目の『ライオンと魔女』を取り出す(ナルニアの歴史からいうと二番目なのだが、まあそんなことはどうでもよろしい)。そんでもって、ぱらりと頁をめくる。
「1 ルーシイ、衣装だんすをあけてみる」だ。これだけでジーンとくる。
そして、本文。
むかし、ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィという四人の子供たちが、いました。この物語は、その四人きょうだいが、この前の戦争(第一次世界大戦)の時、空襲をさけてロンドンから疎開した時におこったことなのです
いかん。もう涙が滲んで、文字が霞んできた。ええもんはええのお。エンデなんかメじゃあないなあ。
そんなわけで、『ライオンと魔女』を読みはじめると自動的に七巻目の『さいごの戦い』まで読んでしまうので、忙しい時に『ライオンと魔女』を本棚から引っ張りだすのは危険なのである(あと危いのは阿佐田哲也の『麻雀放浪記』と美内すずえの『ガラスの仮面』ね。それから山岸涼子の『アラベスク』第二部も)。
今年も一月の六日から七日にかけてまた「ナルニア」漬け。しかし、少年(少女)がどこか異界へ渡るという少年(少女)文学のあまりにもありふれたパターンを踏襲しているこの『ナルニア国ものがたり』がなぜそんなに面白いのか。今回は、そんなこともちらちら考えながら読んでいた。
① ナルニア国を作りあげた神のごときライオン、アスランがカッコいいから……ほんとにカッコイイんだな、これが。つまり、主人公は魅力的でなきゃいけないってことで、これは少年(少女)文学だけの問題じゃないということになるわけね。
② 「悪」の部分が生き生きと描かれている……ぺベンシー家の四きょうだいのいとこユースチスが『朝びらき丸 東の海へ』へ最初に出てきた時とか、『さいごの戦い』のヨコシマという名の大猿とか、『ナルニア国ものがたり』に出てくるキャラクターは微妙に「悪」で染められている場合があって、それがすごくうまくいってるんだな。善人ばかりじゃつまらない。やはりこれも少年(少女)文学の問題だけじゃないのね。
③ 描写が(呆れるほど)うまい……アスランのナルニア国作りとか、東の果ての海とか、とにかく「この世ならぬ風景」の連続なのだが、それを平気で描写して読者を納得させてしまうところが(ほんとに)すごい。わたしはルイスのSFの方も読んだがそっちはあまり感心しなかったので、得意分野があるということだろうか。やはり、小説は描写やね。おっと、これも少年(少女)文学……以下同様。
④ 名脇役がいる……もちろん、ものいうネズミ、リーピチープのこと。ものいう馬ブレーの方が好きというファンも多いが。やはり、小説は……以下同様。
⑤ ラストが感動的……以下同様。
おお、C・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』はただ面白いばかりではなく、世紀末を生きる作家たちへのヒントの書だったのか。でも、ジョージ・マクドナルドはもっとすごいけど。
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