コラム
斎藤環「2017この3冊」毎日新聞|『中動態の世界』國分功一郎『ゲンロン0 観光客の哲学』東浩紀『ニューロラカン』久保田泰考
2017 この3冊
〈1〉『中動態の世界』國分功一郎著(医学書院・2160円)
〈2〉『ゲンロン0 観光客の哲学』東浩紀著(ゲンロン・2484円)
〈3〉『ニューロラカン』久保田泰考著(誠信書房・3240円)
〈1〉「能動/受動」の起源にあるとされる、失われた「中動態」。哲学者による言語学的な検討は、思いがけず治療論にも通じていた。オープンダイアローグをはじめ、治療的な対話空間はしばしば中動態的なのである。ここには確実に、「治療をめぐる哲学」の新しい萌芽(ほうが)がある。
〈2〉東浩紀による久々の思想書。東は共感や哀れみと言った「誤配」に基づく「観光客=郵便的マルチチュード」の連帯を提唱する。全面的に賛同はしがたいが、この思考のスピード感は素晴らしい。第二部のドストエフスキー論も秀逸。
〈3〉脳科学者によるラカン入門。にもかかわらず著者は「脳科学」と「精神分析」の安易な折衷を峻拒(しゅんきょ)しつつ、むしろ両者の非並行的な関係を強調する。このとき「ラカン」は、科学者の万能感を諌める倫理的審級となる。
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